『宮下正美著作集』(復刻版)刊行に寄せて

2015年7月3日

『宮下正美著作集』(復刻版)刊行に寄せて
~湘南学園へ高森町より寄贈~

 1947(昭和22)年から1959(昭和34)年の13年間にわたり、湘南学園学園長として大きな足跡を残された第三代学園長宮下正美氏(以下宮下園長)が、著名な児童文学者であることはすでに校長日記(校長日記2014.12.22)に記しました。宮下園長の児童文学へのデビューは、28歳であった1929(昭和4)年の「鏡のない国 おもしろいゆかいなお話」(文銀社)に始まります。以来、学園長在任中には、代表作『山をゆく歌』『消えた馬』(三部作の1つ『ふうちんと山犬』は1961年刊行)を含め、27作品を上梓されています。生涯では138作品を世に問い、児童文学はもとより、専門にされた哲学をはじめ、倫理学、科学、伝記、教育など多彩な分野に及んでいます。今回『宮下正美著作集』を復刻刊行された、宮下園長の郷里長野県下伊那郡高森町は、天竜川沿いの伊那谷の一角にあります。私も大学院生時代に、資料調査のためにマイクロカメラを持参して飯田を訪れたことを懐かしく想い出します。

 『山をゆく歌』の表紙をめくると、「山はかぎりもなく ひろく また深かった あなたは知っていますか 山のむこうにまた山があることを 山の色の山のすがたの さまざまにかわることをー 少年の日の冒険の思い出は くれない色のかがやきをもって いまも わたしの心をゆさぶっています 著者」という序文が載せられ、山深い郷里への強い想いが語られています。大学入学前には海というものを見たことがなかったという宮下園長が、慶応義塾の恩師である小泉信三氏の懇請をうけて、湘南・鵠沼の湘南学園長として赴任し学園教育を精力的に進められてほぼ10年が経過した頃、幼少時を過した伊那谷での生活を懐かしさと共に児童文学のモチーフにされたのでしょう。

 この三部作には、光沢郁夫高森町教育長の「復刻にあたり」に加えて、「宮下正美先生を語り継ぐ会」を主宰されている山田博章氏の復刻刊行にいたる丁寧な「取材ノート」が付されているのが、大きな魅力の1つになっています。

 湘南学園創立82周年目にあたる今年度、これからの湘南学園教育の在り方を改めて考える時、こうした先達が残された教育活動を含めた多様な事跡から豊かに学び、あるべき未来の歴史社会を想像し、現実に進めるべき教学改革に取り組むことにしたいと念じています。