番外編還暦読書

2013年9月26日

読書の秋にちなんで今日は番外編です。還暦も過ぎると本を選ぶときに人生の残り時間を意識します。若いときは活字中毒者で、手当たり次第に読み漁ったものですが、人間還暦をすぎるとさすがに読書スタイルも変わり、価値のある本を味読したいものだと思うようになりました。ということで本日は三冊の本を、僭越ながらご紹介します。最近の読書のテーマはあらゆることをどう相対化するのかです。

英国一家日本を食べる  マイケル・ブース著 亜紀書房   著者はイギリスのフードジャーナリスト。奥さま、まだ幼い子ども達と一年間に渡って、北海道から沖縄までの日本の食をたべまくった記録です。食べたものは私のホームグランドの一つ新宿の思い出横丁のやきとりやソースやきそばから、もちろん私の入ったことのない(これからも間違いなく訪れることのない)京都の超高級料亭などなど、新宿がまさに映画のブレードランナーに見えるようなイギリス人の目から見た日本の「食」の今を、家族の視点も取り入れて語ったドキュメントです。関心するのは各地域、例えば沖縄の食を語るときに、その土地の歴史や社会的な分析の中での食について実に的確につかんだ上で書いていることです。またイギリス人らしいユーモアと時にシニカルな文章に魅せられてしまいました。日本にも料理評論家はいますが、著者のような視野でかかれたものは私は読んだことはありません。わが国の「食」を、イギリス人の立場から深く切り込み、相対化することは、何より楽しい読書体験でした。

お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人  吉村葉子著 講談社文庫  著者は1952年藤沢生まれの私と同年齢の人です。パリで子どもを産み、子育てもした体験をもとに書いた作品ですから、うわっつらな日本とフランスの比較文化論にとどまっていません。やはりフランス人の食生活、食との向かい合いかたについて、多くのページを割いています。中でもブルゴーニュ料理の中でのラタトゥーユについて、最近こっている私は、思わずうなってしまいました。野菜をおいしくたっぷりとるのには、いつも大量に作り、冷蔵庫にストックすべき料理であることを、改めて感じました。おもしろいのはフランスの小学校と子育てについてです。日本の教育と子育てを相対化することなしに、グローバルリゼーションと教育を語っても意味はありません。笑えたのは小学校の体操着の話。担任の先生はただ動きやすいものだったらなんでもいい、というのですが、家に来たお友達の体操着袋から零れ落ちてきたのはなんとパパのトランクス。トランクスとTシャツの子が何人もいたということ。著者の「それでいいのだ」のいう感想が素敵です。「天才バカボン」がフランス語で歌われているわけもわかりました?

いつかティファニーで朝食を  マキヒロチ著  新潮社   マンガです。アパレル業界の一線で働く女子 ヨガインストラクターの女子 主婦など様々なアラサー女子の群像劇?私にとってもっとも遠い女子たちのリアルな葛藤が描かれています。三週間も休みが取れず、身も心もぼろぼろになりながら、「仕事」の意味、「恋愛」「家族」-もうやってられないーというぎりぎりの中で、仲間との朝食タイムを支えに、現実をほんのちょっとだけ「ズラシ」ながら、支えあっていくアラサー女子を見ると、思わず「がんばれー」と言いたくなります。そして自分も励まされる気持ちになります。湘南学園では「食育」を学園をテーマに取り組んでいますが、今日番外編として取り上げた三冊は「食育」を深く考えるヒントに溢れていると思います。