第131回 中国と日本 現在とこれから

2010年11月10日

日本と中国との関係で険しいニュースが続いています。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の映像が、動画サイトの「ユーチューブ」に投稿され、日本でも海外で も幅広く閲覧できる状態になりました。日本政府が外交判断から非公開とした生々しい映像が突然暴露され、情報流出の責任を問う厳しい非難が集まっていま す。本来は国民に公開されるべき映像で、知る権利を侵す機密扱いがおかしいとの意見もあります。
先月には、中国内陸部の都市で次々と大規模な反日デモが起こり、日系店舗に被害まで出ました。一昨日広州で行われたアジア大会のサッカー日中戦は、日本 人サポーターが専用エリアに集められ、専用バスで出入りし、公安当局者が厳重な警戒に当たる態勢でようやく試合が行われました。

最近中国へ仕事で出かけた、私学関係者も含む何名かの方々にお尋ねすると、報道された事件は目立つけど、基本的には現地で平穏に仕事ができるし、周りの厳しい視線にひるむということはないとのお話でした。
特にあの反日デモでは、多数の中国人学生、若者が参加していたことが注目されました。経済発展が著しい中国の国内には多くの社会問題も存在します。貧富 の差が広がり、失業者が多く、就職が難しい問題もそのひとつです。内政をめぐる様々な問題では抗議の声をあげにくい若者や民衆のことも指摘されています。 対外的な問題が国民に募る不満のはけ口になるのは、現在も世界各地である構図といえるでしょう。
しかし、多数の交流予定が次々と中止される事態は憂慮されます。日中関係の将来へ向けて、この険しい情勢を看過せず、様々な努力を強める必要があるので はないでしょうか。外交問題の解決はもちろん、逆風に耐えて民間の交流機会を拡げていく努力も一層重要になっていると考えられます。「批判」と「理解」と 「説得」の調和と努力が問われています。

私が高校に入学した年に、日本と中国は国交を回復しました。それまでこの巨大な隣国は「近くて遠い国」であり、自由な観光や通商は不可能でした。急に身 近になった中国に関心を持ち、中国語を少し学んだりもしました。その後中国は「文化大革命」を終息させて「改革開放路線」に転じ、経済と社会のすさまじい 大変動が進行しました。日中の経済交流は飛躍的に回復発展し、食品や雑貨など中国物産が日本にあふれ、日本など先進諸国は競って中国に工場やお店や事業所 を設け、中国は「世界の工場」と呼ばれる位置に上がりました。
大学生が選ぶ「第2外国語」で、いま最多の選択言語は中国語です。私が学生時代にはごく少数派だった言語がメジャーになりました。就職に有利そうだとい うのが大きな理由でしょう。日本、韓国、中国という東アジアの経済的な連携や協力は、この逆風を経てもまた確認、強化されるものと思われます。

この前の日曜日に、横浜中華街へ寄ってみました。横浜でのAPEC開催に合わせて、街や施設には警官の方々が多数配置されていました。でも中華街はたいへんな盛況で、飲食や買い物を楽しむ人びとでにぎわっていました。
高校生と中学生の皆さんには、まず歴史学習を大切に、隣接諸国への多様な関心を育み、一面的でない国際的な視野を持った市民に育ってほしいと思います。 そして同時代を生きる者どうしの国際的な交流体験を通じて、民族の違いを越える発想や理解を豊かにしていってほしいものです。