第1004回 21世紀の「未来」を考察する本 ③

2014年11月28日

岩波ジュニア新書の『21世紀はどんな世界になるのか』(眞 淳平著)について、続けて今日まで紹介させていただきます。

“これから世界は、そして人類はどうなっていくのだろう”という未来への問いかけに対して、包括的な予測を述べていて、とても啓発される好著です。

 

「可能性の高い未来」を論じた部分の続きになります。まず医療技術の急速な進歩についてです。がん治療の最前線の動向に注目し、「再生医療」の技術に目を向けます。iPS細胞とは何か、その創薬と治療についても詳しく紹介されます。細胞シートや臓器の再生技術の到達など別世界にふれる驚きが続きます。“人類の寿命はどこまで延びるか”に対する予想は様々ですが、医学の進展には頭が下がる思いになります。

合わせてBMI(脳と機械を直接つなぐシステム)の研究成果と、医療・介護分野への利用について紹介されます。BMIは脳情報の読み取り技術の発展につながり、人間の思考範囲や他者とのコミュニケーションのあり方まで激変させる可能性を持ったものと知りました。

「21世紀はロボットの世紀」と言われるほどロボットの開発も重要なテーマです。すでにロボットは多様化し、様々な用途にそった製作が進んでいます。ロボットに認知・発達機能を持たせる探究も急ピッチで深まり、人間とロボットの共存する社会のあり方が論じられています。あくまで人間のパートナーとして役立てながら、ロボットを安全にコントロールする課題も切実になることが推測されています。

 

第4章は「危険な未来」として、制御できない社会の激変や世界が直面する危機の内実が述べられます。ここはごく簡単に紹介します。情報化社会の進行に伴うプライバシーの危機や侵害から説明が始まりますが、なるほどと理解しやすいところです。ぜひ直接に本書をお読み下さい。

次に、絶え間ない最新兵器の開発と戦争の変質について述べられます。無人機やロボット兵器に焦点があてられ、核兵器の拡散と偶発核戦争、サイバー戦争の危険が述べられます。核テロやバイオテロにも注目が向けられます。

そして、地球生態系の危機と地球温暖化の実情と予測が述べられます。異常気象の頻発や気象工学も参照して、温暖化を抑制する努力の緊急性が説明されます。

最後にコンピュータの情報処理能力の圧倒的な進歩が与える影響に着眼し、ある一線を越えて人間社会を深刻な危機に陥れる可能性について、諸説を紹介しながら述べています。適切な規制のあり方を確立する必要があります。

 

第5章のまとめでは、以上のような大きな変化が訪れる中で、21世紀を生きていく私たちが心に留めておくべきことが述べられます。

まず「仕事」に着目します。仕事を取り巻く環境と仕事の質が変わる中での選択と努力についての筆者の助言はとても有益なものです。次に「社会の激変」に備えた情報の選択と予測、判断の重要性が述べられます。

最後に自分の人生を支える「人間関係」をどんな意図を大事にして築いていくべきか、という大切な助言が述べられます。全体に短いですが、筆者のまとめをしっかりと傾聴し、留意したいと思われました。

 

本書は、文系出身の自分にとって理系分野の到達と課題を垣間見る上でも、視野の広がる刺激に富む、有益な1冊でした。

高校生や中学生にはやや難しい部分もありますが、新たな分野に好奇心を広げ、自分の専攻分野を見極めていく上でも参考になる情報に恵まれることでしょう。保護者の方々にも、次世代に託すべき世界と人類の未来について基本的な知識や認識を大いに広げられる本として推薦したいと思います。