第1008回 現代の男性へ届ける知恵と励まし ②

2014年12月3日

後期中間試験の3日目です。
朝晩はめっきり寒くなり、登下校にマフラーや手袋、マスクなどを欠かせない生徒達も多いようです。中には冬にもYシャツ1枚を基本に学校生活を送っている諸君もいて驚かされます。ともかく良い体調を維持して、連続するテストに学習の成果を十分発揮できるように願っています。

 

昨日に続いて、ちくま新書の『男子の貞操~僕らの性は僕らが語る』(坂爪真吾著)について、その概要を紹介させていただきます。

男子の性に関する処方箋として、まず男性の性生活の原点にあたる行為としての射精をめぐる問題が考察されます。その歴史をたどると、実は宗教や国家による男性の身体管理の歴史として捉えられると説かれます。“自慰”に対する考え方は転換しましたが、男性の“野獣神話”にもとづく性風俗産業が肥大化し、ますます貧困化の進んだ現状が指摘されます。筆者の運営する非営利組織では、射精を性機能のケア、性の健康と権利を守るためのケアとして介助サービスを行っています。食事と睡眠と同様に大切な生活習慣であり、自尊心を守り、積極的な社会生活を送ることを支える行為でもあることが説かれます。

次に性的好奇心や性欲と、異性の裸体との関係について歴史的な経過が説明されます。たとえば江戸時代までの日本の風俗は今日と全く異なるものであり、いま世の中に溢れる大半は「ジャンクヌード」と呼べるものであることが説明されます。それを消費し続けることで生じる“性活習慣病”の弊害が指摘されます。

その上で生身の異性の裸体をきちんと見る機会の大切さにも言及し、一人ひとりにそれぞれの個性と魅力があり、「モノ」「記号」でなく「血の通った生命」として捉えることが、恋愛や性行為、結婚へと進む中で大切になることが述べられます。

次に童貞をめぐる問題が対象になります。未婚化や晩婚化の問題とも共に語られるこのテーマが矮小化され個人の問題としてのみ扱われ、一方では様々なルートで簡単に童貞を卒業できる社会でもあることが説明されます。婚前交渉へのタブー視はごく弱まり、男女交際はずいぶん見通しの良い時代になってもいます。それなのに性行為への動機付け自体が希薄な若者が増えているのです。

実は昔の共同体には、若者の初体験を皆で支える仕組みがありました。近代化と都市化によって多数の若者が共同体を離れ、「初体験システム」の主流として見合い結婚が登場します。しかし戦後、婚姻をめぐる考え方は転換され、恋愛結婚が主流になり、“自由恋愛市場”の舞台で初体験は“自己責任化”されたと説明されます。

現代の若者たちに必要なのは新たな「恋愛とセックスの学校」ではないかと唱えられます。幼少期から地域ぐるみで男女交際に関する教育と支援を行う必要があるとして、欧米社会の様子も垣間見ています。

 

セックスを娯楽としての側面でしか扱わない社会の風潮に対して、次世代に命をつなぐライフラインであり、社会で孤独にならずに生きていくため、他者との絆をつくるための命綱でもある、とする筆者の主張に共感を覚えます。

筆者は「自分だけが気持ち良くなる行為」でなく「相手と一緒に幸せになるための行為」として“利他的な性行為”を目指すべきことを説き、“絆をつくるセックス”を獲得するための処方箋は何か、と論考を進めます。恋愛、結婚など基本ワードに沿って坂爪氏がどのような実践論を説いているのか、明日のまとめで紹介いたします。