第1016回 転換期を生きる若者とキャリア教育を考える本 ③

2014年12月12日

混沌とした現代社会を生きていく次世代の若者達に対して、先行する我々の世代はどのような教育や助言を行うべきか。本当に有益なキャリア教育とはどうあるべきなのか。気軽に読めて有益な新書『キャリア教育のウソ』(児美川孝一郎著)について、その概要の紹介を今日まででまとめたいと思います。

 

「キャリアプラン」の作成も学校現場で定番になっています。「~歳の私」を意識させるキャリア教育をアピールする私立女子校の例等も示されます。
しかしその作成が文科省のいう「将来設計能力」の育成に本当につながるのか、と筆者は問いかけます。人生の節目節目に起こる問題や課題に気づかせ考えさせる機会とつなげれば一定は有益であるが、たとえば“将来の進路目標→年間の学習プラン→月ごとの学習目標→毎日の学習記録”といった指導サイクルなどは果たして実効性がどうなのかと。

そもそも将来の変化のスピードは速すぎる。“いま小学校へ入学した子どもの過半数が、大学卒業後には今は存在しない職業に就くだろう”との予測も紹介されます。実生活では“巡ってきた偶然のチャンスを生かして次なるキャリアへの道を開くことが相当に多い”ことが示唆されます。

キャリアプランを作成するなら相当な事前学習が必要であり、戦後の日本人が世代ごとにどんなライフコースをたどったかを知り、更に現在までの変化の延長線上に新しいライフコースを考え創っていく自覚を育まなければならない。現時点で多数派のキャリアモデルだけでなく、今はまだ少数派でも信念や確信を持って生きている人びとの姿にもふれて、今後の日本の社会を“更新”していく担い手を育てるべきである、と鋭い提起をしています。
いま「フツー」とされるステレオタイプに従って書き込むのではなく、社会には実は多様で豊かな選択肢があることを知り、この社会の現実やそこに生きる人びとの“生きざま”についてもっと知って学んで欲しい、と呼びかけています。

 

キャリア教育の取り組みが、結局「正社員モデル」を大前提にしていることにも切り込みます。生涯賃金という指標が今後さらに“机上の計算”になる恐れ、寄らば大樹のように正社員という身分が長期安定すら弱まる可能性が説明されます。どの場に行っても“個人が自己のキャリアを自律的に開発していく必要性”が増すし、一方で正社員にはなれない層が新卒労働市場の状況では必ず一定の割合で存在することに留意する必要が述べられます。

非正規雇用の形態で働くことへの対応も含めた教育にも責任を持つ必要があるのに、就職実績をめぐる学校間競争がその充実を阻害していると指摘します。その分野で必要な内容として、非正規労働の分析と次へのステップへの見通しの立て方、公的な訓練・支援や労働法についての学習と情報提供、同じプロセスを歩む者の仲間づくり、といった課題があげられます。

 

最後に筆者から高校生や大学生など若い世代に、転換期を生きる知恵やメッセージが寄せられます。自分の人生を引き受ける責任を説くとともに、他者との相互の支え合いの関係の中に上手に入っていくことが説かれます。君たちはたしかに大変な時代に生まれてきたが、“ピンチの中にチャンスあり”で、職業の選択もライフスタイルの選択もはるかに自由度が増した社会にあり、自分がどう生きて行きたいかの“軸”があれば、それを実現できる可能性は一層広がっていると励ましています。

そんな時代と社会に漕ぎ出していくために、いったい何がポイントになるのかとして、筆者は2つの要点を提起しています。それは何かはぜひこの本を直接に手に取って読んでいただけたらと思います。まだ心許ない「未来マップ」へ旅立つにあたっての「羅針盤」を持ち、それをじっくり育てて磨き上げていってほしい。これが結びの言葉となっています。

 

また長くなってしまいましたが、在校生にも卒業生にも、そして保護者の皆様にもお勧めしたい本ですし、その内容を気軽に自由に語り合っていければいいなと強く思われました。本校のキャリア教育の充実のためにも職場の共通理解を深め、カリキュラムと指導の充実にも生かしていければと考えます。