第264回 中学道徳教育の講演会:心に深く残るお話でした!

2011年6月13日

 本日は、先週金曜日に中学生を対象として実施した、「道徳教育の時間」の講演会の模様をご紹介します。
 今回のテーマは、「東日本大震災を受けて~私たちが今できること」でした。講師としてお招きしたのは、藤沢市の 南消防署・高度救助隊の隊長でおられる塩澤様、同スタッフの小澤様、黒瀬様の3名でした。本校のアリーナに中学生全学年の 生徒達が集合しました。スクリーンの大画面でパワーポイント資料を駆使した、たいへん密度の濃い解説レクチャーを して頂きました。

 今回の画面資料は、この日のために小澤様が、ご多忙な中を長時間かけて準備して下さったものです。スタッフの方々皆さんで 作成内容を検討され、長時間の説明で飽きがこないように数々のクイズも豊富に用意されて、この日に備えて下さいました。 生徒諸君はお話の内容に惹きつけられて、大部分の諸君が最後までよく集中して講演を聞き、質疑応答の時間でも活発な質問が 寄せられました。我々教員もお話の進行の中で涙をこらえきれず、深い感動を共有してお聞きしました。

 この講演会には、PTA『水の輪』編集委員会のお母様方も取材に来て下さいました。今回の内容は、テスト最終日であった 高校生諸君にもぜひ、また広く在校生保護者やこの通信を読んで頂いておられる学外の方々にもご紹介したいと思いました。 小澤様のレクチャーと黒瀬様のパワーポイントのペアで展開されたご講演のあらすじを、大まかにまとめて紹介させて 頂きます。

 まず、「地震のメカニズム」に関する科学の基礎について説明されました。地殻の部分で起こる「地球のしゃっくり」の仕組み、 日本列島と周辺に多い活断層の状況、日本列島を巡るプレートの交差、そして「震度」や「マグニチュード」等の基本概念について クイズを交えた判りやすい授業が進められました。「津波」と「波浪」との違いなども良く判るご説明でした。中3の生徒会 リーダーや各クラス「出席番号11番」の諸君からテンポ良く指名されました。「M9.0」という今回の巨大地震の規模の深刻さも、 清涼飲料水のボトルから始まるクイズを通して強烈に認識されました。そして1990年代以後に北海道、阪神・淡路、新潟など各地で 経験された大地震の惨状や住民生活の写真が提示され、レスキュー隊の活動が始まり本格化した経緯も知りました。

 次は「被災してしまったら」編のご説明です。様々なライフラインが寸断され、当たり前だった生活が出来なくなり、 どんな対応が必要になるかの説明がありました。防災倉庫にあるスコップや救急箱の意義も理解されました。緊急の止血のために 「手を頭の上へ上げる」効果も実演で理解されました。緊急時には、消防など公共機関だけでなく、地域住民の間の迅速な 助け合いが大切なことが語られました。管内では「ジュニア防災リーダー」の育成に取り組まれているそうで、中学生が地域の 子ども達や高齢者に手を差し伸べてはたす役割も大きいことも理解されました。講演会に先立つ柳下教頭のお話で「釜石の奇跡」の 事例が紹介されていたことともつながりました。避難訓練の定期的な実施や、緊急判断で大事なポイントの共通理解が大切なことを 再認識しました。

 講演者の皆様が救助に行かれた仙台市若林区の2箇所の航空写真は、衝撃的でした。ほぼ跡形もなく家屋は倒壊し、田畑は土砂に 覆われ、集落全体が壊滅的な状況でした。ここで改めて津波の仕組み、特性、対策についてクイズ形式で理解を深める説明を 頂きました。基本は決して油断せず早めに高所へ向かうことです。そこで藤沢市の場合についても地図を用いて想定内容の説明が ありました。一般には入り組んだ海岸では津波が一気に高くなり、平坦な海岸や河川のある所は津波がかなり奥まで進みやすく なります。この市内でも大津波は相当に奥まで来る可能性があることを再認識しました。

 1995年阪神淡路大震災を機に、「緊急消防救助隊」が結成され、いま全国で3961隊も活動されていることを知りました。 今回は、管内から3.11直後に津波被災地へ、そして3月後半から6月上旬まで福島原発の被災地へ緊急消防救助に救助隊が 行かれています。東日本大震災直後の壮絶な救助活動について、いよいよ詳しくお話を聞けました。現地での壮絶な活動報告を、 息をのみ震える思いで伺ったのです。

 藤沢から緊急消防救助隊が、現地に着いたのは3月12日の16時53分でした。高速道路を使って通常は最速約5時間で行ける ルートを、何と26時間もかかったそうです。藤沢発の段階での困難、情報の錯綜、道路事情も給油の便も途中から最悪の中で大幅に 時間がかかりました。当初は茨城方面に指示があったのに、気仙沼の惨状が伝わってそちらに移動せよと指示が変わりました。 しかし更にそこの広域火災が判明し、また急遽、仙台市の津波直撃地域へと行き先の指示が変更になったのだそうです。 電気も止まり夜道は真っ暗で、道中には遠方の火災が暗闇に浮かぶ地点もあったそうです。
 そこから4日間、救助隊の皆様の激闘が展開されました。「被災地ではどんなことが起こるのか」の経験はすでにあったものの、 今回の惨禍は途方のない規模で、見渡す限り瓦礫の山でおおわれ、モノクロで地獄の映像を観るような景色だったそうです。 足の踏場もない瓦礫をかきわけ、倒壊した建物の下を探り、「要救助者」がいないかどうか捜索を続けられたのです。 遺体があればシートで覆って哀悼の意を示しての作業になります。馬の遺体の写真も示されることで、救助隊の方々が行われた 作業の過酷さがしのばれました。

 実は、海辺にごく近い地域での作業の間に、再津波の警報が発令されました。スタッフの方々は辛うじて残った家屋の屋根上に 急いで避難しました。ところがそこへ更に追い打ちをかけるように、福島原発の大爆発のニュースが伝えられたそうです。
 この時は隊員スタッフの方々に「もうこれで帰れないのでは!家族にはもう会えない!」という戦慄の思いが襲ったそうです。 「こんなに死ぬことが近づくことはなかった」と感じられたそうです。
 講演される小澤様は、その時ご自分の奥様と5歳のお子様と生後間もない赤ちゃんのことを思い浮かべられたそうです。 みんな涙を浮かべて、もしもの時に備えて写真を撮り合い、わずかを分け合って食べたカロリーメイトは涙でしょっぱかったとの お話もありました。屋根に上がったスタッフのうち唯一独身だったお一人は、世帯を持たれていて沈痛の表情の仲間の様子を見て、 自分も帰ったら早く家庭を持とう!との思いがこみあげたそうです。こちらへ帰られてから彼女にプロポーズされ、見事に ご結婚が決まった!という嬉しいお話で包んで下さり(もちろん大拍手!)、厳しいお話を聞く我々の気持ちを慰めて下さる 思いやりにも感激しました。

 救助作業は、毎日7時から17時まで10時間連続でした。夜は真っ暗であり、テレビ等からの情報も恵まれない中で、 激務をいやす休息のみです。食事はカップラーメンやアルファ米くらいで、それも不足してクルマで遠方のコンビニへ購入に 行きました。やっと着いたお店はお客さんが何時間もの行列でした。事情を知った店長さんが優先的に箱で渡してくれましたが、 数時間も並んでやっと手に入れたカップラーメンを「大変な作業をされているのだから」とカンパしてくれたおじさんも いらして感激したそうです。夜営の場所には近隣の方から仙台名物の牛タンの差し入れまであったそうです。冷蔵庫も使えない中を こうして何とか食をつながれたのです。一日中の作業で汗びっしょりのまま着替えも出来ず、夜はシュラフで自分のにおいに耐え、 しかも就寝中は救助体験に関わるしんどい夢がつきまとわれたそうです。
 「PTSD」という言葉がありますが、強烈な異常体験をすると、そのトラウマで心身の疲労をひきずり、悪夢に 襲わることもあり、気持ちが安らぐまで時間がかかるのです。行方不明の方があるお家に「捜索終了」と貼らねばならなかった 断腸の思い、犠牲者の子どもの持っていたぬいぐるみを見ての慟哭の思いなどが語られました。わが子の声をひさしぶりに聞いた時は 涙が止まらなかったとのお話には、私も近くの教員も涙するばかりでした。

 小澤様はまとめとして、こんな極限状況の中でも人びとは助け合って懸命に生きていること、日本の人びとの生きる力や 思いやりが示されたこと、皆さんも今回の震災を心に深くとめ、生きていけることに感謝して暮らして欲しいことを 呼びかけられました。・・・・・・何と感動的な講演であったことでしょう!この素晴らしいご講演を中学生のみんなに聞かせて 頂いたことに大感謝の思いがあふれました。

 10分の休憩後に、質疑応答の時間がとられました。中3の佐藤君と曾我君の質問を皮切りに、中2や中1の諸君からも続々と 質問が寄せられました。
 仕事とはいえなぜあんな危険な所に行けるのか、最初の救助行きは原発周辺の地域も含めてどう分担されたのか、 大事故を知って原発をどう見ているのか、自衛隊の活動やマスコミの取材との関わりはどうか、救助の最前線から政治の 対応ぶりはどう見えたか、被災地で放置された犬や猫との関わりは、・・・・・・など驚くほど多岐にわたりました。中には立場上 お答えしにくい、失礼にあたらないかと心配な質問までありました。
 しかし小澤様のご回答は、どんな質問も正面から受けとめられて、深い所から大切なコメントやメッセージを送られていました。 被災した人びとへのもっと親身な関わりが政治にも私達にも求められていること、時間が経つのは早いけど、大震災の直後に 全国の人たちが抱いた痛切な気持ちや思いやりをこれからも温め続けて生きるべきこと、同様に家族や大切な人たちに囲まれて 生きる我々がそのつながりを自覚して大切にすべきこと。ご自分達のプライベートな事柄にも触れながら、心にしみる お話をして下さったのです。

 塩澤様、小澤様、黒瀬様からは、学園の中学生達はとても話に集中して聞いてくれ、本当に講演に来た甲斐がありました、 とお褒めの言葉を頂きました。小澤様は、今日はまるで高校生を対象に講演している感じで、しっかりと話の内容を受けとめて くれるので、途中から話を続ける情熱がわいてくる感じで、汗ばむほどに夢中でお話していました、 と語って下さいました。

 以上で、拙いまとめを終わりにします。今回の講演は、高校生達はもちろんPTA保護者の皆様にもぜひ広く聞いて 頂きたい内容でした。またどこかで機会が設定できたらと考えています。今回の内容につながる形で、後期の「道徳教育の時間」も 中学生の有意義な学びの場を設けたいと思います。