第606回 柴田トヨさんからの贈り物に学ぶ

2013年1月22日

 101歳の詩人・柴田トヨさんが、20日に老衰のためご逝去されました。謹んでお悔やみを申し上げます。この通信でも、第168回と第322回で柴田さんの詩集を紹介させて頂きました。

 柴田さんは、夫に先立たれてから宇都宮市内でひとり暮らしを続け、腰を痛めて大好きな日本舞踊が出来なくなったのを機に、90歳を過ぎてから息子さんの勧めで詩作に取り組まれました。
 産経新聞の長期連載「朝の詩」などに投稿し、詩人で選者の新川和江先生からも高い評価を受け、注目が広がりました。第1詩集の『くじけないで』(2010年)は150万部を越えるベストセラーとなり、海外でも翻訳出版されて国際的な反響を呼びました。100歳を越えての第2詩集『百歳』(2011年)も45万部を越え、日本全国で「柴田トヨ展」が開催されるなど、大きな注目が集まりました。

 『百歳』の最後の方には、「振り込め詐欺犯さんに」という詩があります。更に「私だったら」と被害者の方に寄せた詩が続きます。そして東日本大震災に寄せて、「被災者の皆様に」「被災地のあなたに」のメッセージも広く共感を呼びました。いまこの詩集を再びめくって、特に「頁」という詩に惹きつけられました。「私の人生の頁を/めくってみると/みんな色あせて/いるけれど/それぞれの頁/懸命に生きてきたのよ・・・・・・」、年配者はこういう思いで人生を重ねておられるのだと受けとめました。
 『くじけないで』所収の「貯金」もとりわけ印象深い詩です。「私ね 人から/やさしさを貰ったら/心に貯金をしておくの・・・・・・」、お年寄りの切ない気持ちが静かに伝わってきます。

 みずみずしい感性と的確で美しい言葉。縁あって出会った人、遠くで苦しみ悩む人への労りと優しさ。詩とは、誰にでも書けるものであり、生活と人生に潤いを与え、人々の共感とつながりを広げてくれる素晴らしい文化であることを、柴田トヨさんは教えてくれます。庶民の喜怒哀楽も人生の機微も、街や季節や世相の移り変わりも、すべては詩作の対象です。言葉を選んで表現していく楽しさは皆にひらかれています。若い世代の人達も様々なきっかけから詩作にトライしていって欲しいなとよく思います。