第638回 就職最前線の実態を知るための研修会

2013年3月7日

 この冬は寒い日が続き、梅の開花が例年よりもまた遅れました。
 梅には、桜とはまた違った独特の美しさがあります。梅の花は控えめで高貴な魅力に満ちています。梅が白、ピンク、赤と混じり合って咲く景色は、2~3月の寒さ残る季節の救いでもあり、県内にも公園、里山、田園地帯に梅の名所がたくさんあります。筆者も時間のとれた休日にどこかへ行きたいなと思案しています。
 本日は、昨日に社会科主催の研修会講師としてお招きした、NPO法人POSSE代表・今野晴貴氏のお話について紹介したいと思います。
 今野氏は、前にもご紹介した『ブラック企業』の刊行で注目を集める新進気鋭の研究者です。学生時代から若者の労働相談や調査に数多く関わり、現在は一橋の大学院で雇用政策を専攻しながら、上記のNPO法人を拠点に年間数百件の労働相談を受け、著作や講演でもご多忙の日々です。
 グローバル社会の進展と競争の激化の中で、様々な「ブラック企業」の実態が心配されています。就職難や非正規雇用の増加の中で“正社員になりたい”と切望する若者達に対して、大量採用と大量離職を当然とする企業が、どんなに過酷な選別や「使い捨て」を行っているかを今野氏は具体的に指摘します。
 「働き続けられない雇用」が増大して、前途ある若者が心身を病み、その打撃が社会的な負担にも転嫁されていく構造や、日本型雇用に元来強い傾向が背景にあるから、景気の動向を越えて通常の労務管理の手法として広がる危険があることにも目が向けられます。

 そうした事実を踏まえて、就活に臨む大学生や、数年後に進路選択を迎える高校生や中学生に対して、どんな事実や情報を伝え、問題意識を育てていくかも研修会の大事な留意点になりました。合わせて周囲の親・保護者や教員がどんな視点を持って助言や励ましに努めるべきかについても関心が集まりました。
 若者それぞれが、必要な知識を身につけて自衛することが必要です。若者の利益代表にあたる社会機関が希薄になってきた現在、POSSEのような受け皿となる組織が広がることも大切になっています。
 また親や教師の役割も重要です。「自分が悪い」と自責を強めさせて「自己都合退職」に追い込む手法に対して、安易な根性論で追い打ちをかけるのでなく、自分の尊厳や誇りを改めて大事にしながら、したたかに対応できる視点と強さを若者に育む関わりが、周囲の人間には求められます。中高の教育では、「若者の思考を拓く」ような独自のテーマ学習の指導もぜひお願いしたいとの今野氏の指摘が強く心に残りました。

 職場の先生方だけでなく、たまたま来園していた卒業生2名も参加してくれて、大学生活に関わる率直な気持ちも話してくれ、今後へ向けて大切な問題意識を共有することのできた貴重な研修会でした。