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水無月点描

2016年6月24日

 手紙や葉書をいただくことはうれしいものがあります。帰宅し、テーブルに葉書や手紙が置いてあると、それだけで心が弾みます。貰ってうれしいということもあり、私もできるだけ葉書や手紙を書くようにしています。もちろん手書きです。メールも随分利用し、その恩恵に浴していますが、手書きの便りには何ともいえない温もりを感じます。手書きを大切にするゆえんです。
 
 先日うれしい便りが届きました。以前勤務していた学校で育英資金を提供、創設していただいた方からの便りです。初めてお会いしてから十年近くになります。お会いするのは、年に一、二度ですが、月に一回は手紙か葉書のやりとりがあります。お便りには、先月の「学園長川井陽一からのたより」を読まれての感想が書かれていました。
 
 先月、私は、幼稚園園長が配られた資料から倉橋惣三(1882~1955)を取り上げました。倉橋の「育ての心」の中の文章と共に、「東京女子高等師範(現お茶の水女子大学)付属幼稚園でも活躍し、わが国幼児教育の発展に多大な貢献をした人物として知られています」と紹介しました。倉橋は、付属幼稚園で活躍しただけではなく、東京女子高等師範学校の講師、後には教授としても活躍しています。
 
 お便りに戻ります。お便りには、その方が東京女子高等師範学校在学当時、倉橋惣三の授業を受けたことを記憶しているという内容が記されていました。電話でお話を伺ったところ、「七十年も前のことで、本当は誰かに確認したいところなのですが、とてもいい先生だったと記憶しています」というお話でした。
 
 七十年も前ということからもお分かりかもしれませんが、お便りをいただいた方は、現在92歳です。矍鑠そのもの、そして、いつも笑みを浮かべておられます。手紙の文字は達筆で、文章にはユーモアが交じり、いつも楽しみに拝読しています。心から尊敬している方です。
 前号をお読みいただき、その感想をお寄せくださり、しかも前号で紹介した倉橋惣三から直接教わったという話まで伺えたということで、二重にも三重にもうれしいお便りでした。

 

 6月13日、姉妹校であるオーチャードスクールとの交流会が本校で行われました。オーチャードスクールは、米国インディアナ州インディアナポリスにある学校です。幼稚園から中学校までの総合学園である同校とは、本年、姉妹校の締結に至りました。姉妹校締結に向けて、昨秋、本校教諭2名がオーチャードスクールを訪問しています。
 
 同校は、創立95年の私立名門校として評価の高い学校で、恵まれた自然環境の下、優れた教育活動が展開されています。13日の交流会の際に、学校紹介ビデオを拝見しました。学校が広大な森を所有し、その森の中にある学校ということに目を見張らされました。昨秋訪れた本校教諭によれば、学校を取り巻く治安を含めた良好な環境、生徒と先生方の深い信頼関係、少人数クラスの中でアクティブ・ラーニングを中心とする生徒の自発的で活発な意見を重視する授業等、本当に素晴らしい学校で、ぜひ交流したい学校ですという話でした。そして、同校の本学園訪問という形で初めての交流会が実現の運びとなったわけです。

 学園中学生と高校生の活発な交流を見ながら、またオーチャードスクールの学校紹介ビデオや生徒の発表を聞き、さらに引率責任者のベッキー先生から「ぜひオーチャードスクールに来てください」とのお話を伺い、幼稚園からの一貫校、総合学園という類似性と合わせ、今後さらに交流を深めることができればと思っています。

 オーチャードスクールの来日にあたっては、今回も学園の保護者の皆様始め多くの皆様のお力添えのもと、ホームステイ受け入れにご協力いただきました。今後の交流を考える上でも誠に心強く思うとともに、関係の方々に心より感謝申し上げる次第です。

 13日のオーチャードスクールとの交流は、翌日の神奈川新聞に大きく紹介されました。実は、今月は、別の日も本学園に関する記事が神奈川新聞に掲載されました。
 各新聞には将棋欄というものがあります。たとえば、朝日、毎日には名人戦、読売には竜王戦が掲載されるといった具合です。一方、地元紙神奈川新聞には、県内の棋戦が紹介されています。6月5日から4日間、その欄に学園将棋部の棋譜が掲載されました。
 
 将棋部は、4月に行われた県高校選手権団体戦で見事準優勝を勝ち得ました。他の競技同様、将棋も有力校が多く、激戦の中での決勝進出で、本学園としては過去最高の成績だそうです。顧問の先生から、「慶應湘南、浅野、聖光学院などの強豪校を相手にぎりぎり勝利を重ねて決勝に進むことができました」という話を伺いました。

 顧問の先生の「部員諸君の健闘が誇らしく、感動しました」との言葉に共感を覚えながら、団体戦決勝戦の棋譜及び対戦の様子を記した将棋欄を4日間毎日楽しみに読ませてもらいました。
 将棋部は、日々の活動はもとより、ここ十数年来私学を中心に十校以上の学校と夏に合同合宿を続け、将棋を通じた交流と切磋琢磨の輪を広げているということです。
 
 そのお話を伺いながら、将棋部だけではなく、日々地道な努力を重ねている文化部、運動部の皆さんの活動に思いを馳せつつ、目標を高く掲げ、今後一層健闘してくれることを期待しているところです。

 

 六月のこの時期、幼稚園では本学園高校生の訪問実習を受け入れています。家庭科の授業の1こまを活用し、高2の生徒が幼稚園を訪れ園児と交流するという実習です。その様子を見学に幼稚園を訪れました。
 
 門を入ると二人の園児が虫かごのようなものを持って私のところに駆け寄ってきました。二人とも「今、えさをとってきたんだ」と得意げに話しかけてくれます。一人は、何とトカゲをかごから取り出し、私に見せてくれながら背中をなでています。もう一人は、「この中にありさんがいるんだ。でもちょっと見えないな」と土の入ったかごを見せてくれました。驚かされながらも何ともうれしい歓迎でした。
 
 幼稚園では園内で収穫した梅が丁寧に洗われていました。7月のお泊り会のときのジュースになるのだそうです。さらに、園舎に入ると、年少さんのクラスに、みんなが力を合わせて作った大きな紫陽花の作品が壁一面に飾ってありました。鎌倉の名所の紫陽花よりも心に残る紫陽花と私には思えました。

 高校生が幼稚園に到着しました。クラス単位ということで、三十数名が、年少さんの3クラスに分かれて交流します。交流に当たり、最初に副園長から二つの話がありました。
 
 ひとつは、「年少児は、今、言葉を吸い取るように吸収する時期です。そうした時期ですから美しい日本語を使ってください」というものでした。

 もうひとつは、「子どもたちは模倣します。靴をどのように脱いだらよいか、荷物をどのように置いたらいいか、それは皆さんで考えてください」という投げかけでした。

 生徒がきれいに靴を揃え、荷物を丁寧にまとめて置いて園舎に入ったことは言うまでもありません。そのこと以上に、副園長の二つの話が私には強く印象に残りました。
 今回の交流に参加した高校生にとって、生涯心に残る話ではないだろうか、そんなことを考えていました。

 交流が始まりました。高校生の自己紹介、子どもたちは全身で高校生を見つめています。園児が元気な歌で歓迎した後、高校生と園児がペアになり、粘土細工での交流開始。それぞれ、笑顔で子どもたちに語りかけながら一緒に粘土細工に取り組んでいます。高校生一人ひとりの優しい眼差し、柔らかな表情が、子どもたちの生き生きした表情と相まって、温かな空間を作り出しています。

 あっという間の交流が終わり、ハイタッチでお別れです。幼稚園児との交流は高2の家庭科の授業で、十年以上にわたり6月と11月の2回行われています。毎年、この交流を機に幼児教育を目指す生徒も現れると聞きます。幼児教育に進むにしても進まないにしても、学園生にとって誠に貴重な学びの場であり、幼小中高からなる総合学園としての湘南学園のもつ魅力と可能性のひとつであることをしみじみと感じた交流でした。
 

 小学校では、六年生が、5月31日から3泊4日で奈良、京都への修学旅行に出かけました。湘南学園小学校は、毎年同様のプランで修学旅行を行っています。先生方から届く学級通信等を読むと、子どもたちが、神社仏閣に触れ、また宿舎での友だちとの語らいを通し、多くのものを得ていることが伝わってきます。
 
 修学旅行に関連して、学園小学校校長が毎日ブログに記している「校長日記」に以下の一節がありました。タイトルは「メモする力」でした。

3泊4日の奈良・京都の引率を通して、生徒の「書く力」と「優しさ」が印象に残っています。話を聞くことの連続でしたが、「子ども達がよくメモをとるので驚きました」「よくお勉強をしていますね。熱心に聴いてくれました」と今回お世話になったボランティアガイドさんから、嬉しい言葉を沢山いただきました。
 日常と違う空間に身を置いて、行くところ行くところで感心されるということは、本物のメモする力が備わっている証と言えましょう。
 本校の子ども達の修学旅行での「メモする力」は、初めて引率した時も驚きましたが、今年の6年生も良くメモをしていました。実は、子ども達だけではなく、先生方もメモをしていたのです。

 
 学園小学校における日常の教育活動の成果の一端を「子ども達の「メモする力」」が端なくも物語っているように思えてきます。併せて、私は、「校長日記」の引用最後の「実は、子ども達だけではなく、先生方もメモをしていたのです」にも注目しました。
 
 本学園では、学園全体における教員研修の充実を期して、毎年夏に「湘南学園全学教育研究会」を開催しています。この研究会も回を重ね、今年で6回目を迎えることになりました。
 さらに学園小学校では、今年度から、教育研究の主題を「『豊かな学びを目指して』~『書く』ことを通し、ともに育つ~」と決め、5ヵ年計画で教育研究を深めており、今月8日には、大学の先生を講師にお迎えし、「【教育研究】校内研究会」を開催しました。
 
 私は、教師に求められるものとして、「プロ意識」と「アマチュア精神」が大切であることを教職員に伝え続けています。他の職業もそうであるように、教師も教育に携わるプロとしての自覚と誇りを持ち、専門性を『磨き続けること』が重要であると考えています。いわゆる「プロ意識」です。同時に、常に「初心にかえる姿勢」も大切であると思っています。「『謙虚さ』、相手(同僚、上司、園児・児童・生徒、保護者、同窓生、地域の方々等)に対する『リスペクト』(敬意や思いやりの気持ち)」も重要であると思います。私の考える「アマチュア精神」ということになります。
 
 学園小学校「教育研究」のテーマ(「『書く』ことを通し、ともに育つ」)、さらにはプロ意識(「自ら磨き続ける姿勢」)の一端が、「先生方もメモをしていたのです」というところに垣間見えるような気がします。

 学園小学校「校長日記」の「メモする力」の文章は、学園の今後、すなわち、学ぶものと教えるものが共に成長し続ける学園ということを考える上で大いに示唆に富む内容であると思っています。
 
 メモの件で一言申し添えれば、奈良の高名なお寺のご住職は、「メモをとらないで、今、しっかり聴きなさい」と言われたそうです。あるクラスの学級通信で、子どもたちが、そのご住職の話をメモなしでしっかりと受け止めていることを知りました。きっと、そのことも子どもたちにとって貴重な経験になり、更なる成長につながったのではないだろうかと考えています。

 冒頭の手紙の話や「メモ」にみられる「書く」ことの大切さ、高校生と幼稚園児の交流やオーチャードスクールとの交流にみられる異年齢あるいは異文化交流を通して学ぶことの意義、さらに、将棋部や「教育研究会」にみられる地道な努力の継続あるいは切磋琢磨の重要性等、学園の一層の発展に向けてのヒントを今月も感じています。
 
 幼小中高からなる総合学園としての本学園の魅力と可能性、常に自覚し追求し続けたいテーマです。