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一雨、千山を潤す

2017年6月29日

 六月は紫陽花の月と呼んでもよいのではないでしょうか。

 紫陽花の名所の中で、お気に入りの場所はみなさんそれぞれかと思います。私はやはり鎌倉を真っ先に思い浮かべます。二年前、本当に土砂降りの中、明月院に足を運んだことがあります。ちょうど紫陽花が見頃。土砂降りがかえって紫陽花の印象を濃くしてくれたようで、とても心に残っています。六月は紫陽花の月であり、そして、雨の月でもあります。
 
 六年ほど前の話です。職場の若手の方から結婚式にお招きを受けました。五月の連休中の結婚式当日は雨でした。式が終わりに差し掛かり、新郎新婦のご両親を代表して新婦のお父様からご挨拶がありました。

 「本日は雨の中をお運びいただき二人を祝福いただきありがとうございました」とご挨拶は始まりました。「皆様には、本日はあいにくの雨ということで、せっかくの二人の門出の日は晴れていたらよかったのにと思われた方もおられるかと思います」。話は続きます。「私どもは鹿児島から参りました。鹿児島には「島津雨」という言葉があります。何か大事なことを始めようとする時に降る雨を「島津雨」と呼び、吉兆と捉えています」。そして、最後に、「皆様には、本日の雨を「島津雨」とご理解いただき、二人の今後を温かく見守っていただきたいと思います」と結ばれました。

 大きな拍手と共に、その場が何となく明るくなったようにも思いました。「島津雨」、吉兆を象徴する雨。外は相変わらずの雨でしたが、会場にはお日様が顔を出し、辺りを照らしてくれているようにさえ感じました。

 言葉の力の大きさを感じました。「島津雨」という言葉を聞いた瞬間、心が揺り動かされるような感をもちました。もうひとつは、雨の大切さです。「島津雨」の由来は全くわかりませんが、雨が私たちの生活にとって大切であることも関係しているような気がします。
 
 近年、集中豪雨による被害等が各地で発生していることもあり、雨がわたしたちの日常生活に大きな打撃を与えることも一方にあります。しかし、やはり、雨はわたしたちの生活にとって不可欠と言わざるをえません。

 わたしたちの命を支える食べ物、その多くを担う農業を考えても、雨がどれほど大切かは改めて申し上げるまでもないことのように思います。
 
 ところで、湘南学園では、「グローバル教育」への取り組みの中で、留学生の受け入れ、学園生の留学、あるいは海外姉妹校交流、海外セミナー等、様々な取り組みを行っています。

 そうした中で、今月は、湘南学園を初めて訪問される外国からのお客様をお迎えしました。タンザニアさくら女子中学校とリトアニア健康科学大学附属ギムナジウムの生徒のみなさんです。ここでは、タンザニアさくら女子中学校との交流にふれたいと思います。

 タンザニアは、アフリカ東部に位置し、インド洋に面し、北にキリマンジャロが聳えケニアと国境を接する国です。

 タンザニアのさくら女子中学校は、日本のODAの支援を受け設立された全寮制の女子中学校です。湘南学園とのコラボは、学園中高がスーパーグローバルハイスクール(SGH)アソシエイト校であることから生まれました。SGHアソシエイト校としての高大連携プログラムの中で、慶應義塾大学環境情報学部の長谷部研究会とのコラボが可能になり、さくら女子中学校との交流が実現に至りました。

 今回来日した四名の女子生徒と引率のお二人の先生は、本学園の受け入れ家庭にホームステイをし、二日間にわたり、学園において様々な活動や生徒との交流を行いました。その最初の活動が、学園小学校の和室で行われた茶道体験でした。学園保護者の茶道サークルのみなさんにもご協力いただき、貴重な日本文化体験を楽しんでいただくことができました。

 その折、こうした交流の度に毎回茶道のご指導をいただく金子貞夫さんがご用意された画賛(掛け軸)には、紫陽花の絵の脇に、「一雨潤千山」という言葉が記されていました。

 「一雨、千山を潤す」と読むということでした。紫陽花の絵といい、「一雨潤千山」という言葉といい、まさに季節に適ったものと感じました。
 
 今回来日したさくら女子中学校のみなさんは、今後タンザニアの国を背負っていくような役割を嘱望されている方々とも伺いました。今回の来日、さらには、本学園での交流等が、さくら女子中学校のみなさんの成長や視野の拡大につながることを期待しているところです。同時に、これから十年後、あるは二十年後は、アフリカの世界の中に占める位置が必ずや大きくなるような気がします。今回の交流をとおし、学園の生徒のみなさんも、アフリカをより身近に感じるだけでなく、アフリカについてさらに理解を深めるきっかけになれば、交流の意義はより大きくなるはずです。茶道体験をとおしての交流に一緒に参加しながら、そんなことを考えていました。
 
 茶道体験の「画賛(掛け軸)」の言葉「一雨潤千山」。文字通り、「一雨」が千の山に例えられる広い範囲を潤すとも読むことができます。のみならず、さくら女子中学校の生徒のみなさんが、いわば、「一雨」となってタンザニアの発展を含め、「千山」を「潤す」ような活躍をされる、そんな読み方もできるような気もしました。
 
 紫陽花の月、六月。明月院を始めとする本物の紫陽花も味わい深いですが、「画賛(掛け軸)」の「一雨潤千山」の言葉に添えられた紫陽花の絵からもまた何とも言えない深い味わいを感じることができました。

 やはり、六月は紫陽花と雨が似合う月です。

<関連リンク>
【中高HP】
第1339回 タンザニア、そしてリトアニアから(校長通信)
タンザニアさくら女子中学校との交流(学びブログ)