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第18回 昆虫をめぐる不思議で神秘な世界②

2018年6月6日

 前回の続きになります。小学校時代の昆虫体験をたどり、セミの生涯についてふれました。そのセミをめぐる、ある海外のニュースに衝撃を受けました。
 ご存じでない方々も多いと思われ、今回紹介させて頂きます。
 

 北アメリカの各地で、「13年ごと」か「17年ごと」に大量発生するセミがいるそうです。辺り一面を数億匹ものセミが覆いつくし、会話できないほどの大合唱になる光景はさぞ壮観なことでしょう。
 なぜ13年毎・17年毎なのか、二つの数字に共通するのは「素数」です。

 この「素数ゼミの謎」を解明したのは、日本の生物学者・吉村仁教授(静岡大学教授)です。『素数ゼミの謎』(文藝春秋・2005年刊)という書籍があります。

 17年または13年ごとに発生する特定の“素数ゼミ”は、北米の特定の地域だけで発生をくりかえします。普通のセミより地中にいる期間が極端に長く、ぴったり17年と13年で出てくる不思議。吉村教授はその謎について地球史の長大なスケールで考察されます。

 数百万年前の「氷河時代」には、寒さは生き物達にとって過酷な環境でした。北極圏からカナダ、アメリカへと続く北米は、氷河の影響が強く、絶滅したセミも多かったと推察されます。

 地中のセミの成長はどんどん遅くなり、盆地や暖流のそばなど気温が下がりにくい地域で生き残ったセミ達は、地上に出て確実に子孫を残せる生存戦略を身につけたと考えられます。
 違う年にバラバラに羽化するより、同じ年に一斉に羽化して交尾・産卵する方が子孫を確実に残せるのです。北米各地で同じ場所に同じ種類のセミが定期的に大発生するようになったのはそうした切実な背景があったからです。

 そしてなぜ「17年」と「13年」なのか。その秘密は「最小公倍数」にあると吉村教授は分析されます。「素数同士だと最小公倍数が大きくなるから」という論理です。たとえば15年と18年ならそれは90年、13年と17年なら221年になります。

 最小公倍数が小さいと交雑の回数が多くなって周期が乱れ先に絶滅しやすくなる。最小公倍数が大きくなると周期年数が違う群れと交雑しにくく一度に大発生しやすくなる。そこで「素数ゼミ」だけ生き残ってきたと説明されます。

 最近のニュースでは、京都大学の研究チームが遺伝子解析で、13と17の年周期を持つ素数ゼミの種が出会うのは221年に一度しかないが、13年ゼミと17年ゼミが過去に交配した痕跡も確認されたそうです。鍵をにぎる未知の遺伝子が関与する可能性も示唆されるなど、周期の謎にさらに迫る手掛かりになったようです。
 

 何という壮大な自然界の神秘!文系出身の自分には理系の世界の持つ奥深さに眩しい思いもいだかされます。
 願わくば幅広い学園生の子どもたちに、こうした生き物や自然をめぐる不思議なドラマについて、授業やフィールドワーク、図書館や読書を通じてどんどん興味を広げ、自由に探究して欲しいと願っています。