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第129回 「AI時代」の仕事を支える人間力

2019年10月26日

 人工知能の普及の中で、これまで社会と雇用を支えてきた多数の職種が消滅、再編されていくことが予測されています。特に次世代の若者たちにとって、将来の仕事で自分の個性や実力を発揮させ、人生の充実をはかっていくことは切実な願いでしょう。

 先行世代の私たちはどんな観点をもって助言や励ましができるのか。前回の続きで今回は、最近読んだある新書から学んだ知見の一部をご紹介したいと思います。

 その本は、『調べる技術 書く技術』佐藤優著(SB新書)です。

 筆者は外務省官僚から苦難を経て評論家に転じた方です。驚異的な情報収集・分析力を持ち、国際情勢から歴史・宗教・教育・勉強法など多方面のテーマで精力的な著作活動を展開されています。多数の著作を自分も読んでいます。
 この本の主題については、最初にこう提示されています。

・・・・・・現代は情報過多な時代だ、ネット社会とリアル社会が分かち難く結びついており、情報収集の手軽さはかつての比ではない。しかし・・・すき間時間にSNSを見る、スマホで・・・流れてくる情報を見る・・・こうした手軽なインプットの「量」に比例して、集めた情報は本当に「自分のもの」になっているだろうか。・・・インプットとアウトプットの両輪がそろうことで、得た情報が自分の知識になり、教養になる。これが「教養力」という深みを持った人間へと成長する道筋だ。・・・(それは)想定外の出来事に直面した際、そのつど自分の頭で考え、適切に対処する力だ。・・・自分の力で「調べ」、「書く」といった質の高いインプット、アウトプットを行うためのスキルを身につけることが必須条件だ。玉石混淆の情報から、適切なものを効率的に選び取り、深く理解する。・・・・・・(p5~6)

 その上で筆者は、“知的生産力は「トップ1%」のスキルではない(p16)”と提起します。社会の限られた人びとや職種だけが知的生産を行うのではなく、どんな仕事でも知的生産といえる部分が多々あり、何らかの生産活動に従事しているなら、「その中の知的な濃度」を高めて仕事の楽しさや充実感を高めていきたい、と述べます。知的生産の技法を磨き、「人間関係構築力」を高めることによって、人生そのもの充実度が上がることが最終目的ではないか、と説きます。

 そして、学力格差が「フタコブラクダ化」する現代日本の中で、AI時代においても全ての仕事が完全にAIに奪われることはあり得ず、「AIを競争相手としない、真に人間的なスキル、いわば人間だけが理解できる“付加価値”をつける素養を磨くこと(p25)」が大切だ、と述べます。
 
 AIには出来ない人間の対応力が例示されます。接客サービスなら、お客さんの状態を観察して、マニュアルを基本としながらも臨機応変に対応出来る力。婚活サービスなら、年齢や年収など細目の入力から条件に「最適な」相手を探してはくれるが、「人間的な相性」まではAIは判別出来ない限界。人間の持つ非合理性、直感や洞察の力は奥深いものだ、と補足されます。

 新しい技術や商品開発では、「知的生産の根幹をなすのはアイデアであり、それは世の中の流行を見抜く眼力や柔軟な発想力、あるいはもっと根源的な人間力があれば発揮できるもの」(p30)と指摘されます。どんな業務でもちょっとした気遣いや工夫を施すことができる。何かしら人間的な文脈を読んで付加価値をつけることができる。AIには出来ない人間の芸当だ、と説くのです。
 
 その上で、「トライアンドエラーで調べる力、書く力を高める」重要性を説いています。中学~高校レベルの基礎学力の大切さも丁寧に説明され、「自分の仕事に関する知識をアップデートする」(p32)ための日常的な努力が勧められます。「やってみる」「続ける」「考え直してまたやってみる」「時には見極める」、そうした勤勉さを身につけていくべきだと説かれます。そしてこのような中間まとめをします。

・・・・・・今後は、分析力の部分はどんどんAIが担うようになっていき、人間は人間的な価値判断や感覚、発想力、創造力、想像力を動員し、付加価値をつける総合力がなくては、豊かに幸せに生きていけない。そういう時代が到来しつつあるのだ。(p40)

 
 本書はその後、「知的生産の技法」について具体的、実践的に説明します。
 【インプット】情報を「読む力」を高める/【アウトプット】読んだ知識を表現につなげるスキル/調べる技術、書く技術の「インフラ整備」のすすめ、と続きます。終章では、お金の扱い方、人脈の大切さ、休息のあり方など、広く人生論的な論考も添えられています。
 
 この本の課題提起について自分なりの咀嚼に努め、今後に生かしていきたいと思いました。読者はまず今後の自分に役立てたいと感じ、若い世代にも一読を勧めたくなるものと思われます。書店で手にとっていただけたら嬉しいです。