共にそだつ
小学校六年生のあるクラスの学級通信に「カウントダウン」という言葉がありました。卒業式までの残りの登校日数を書いた紙が教室の前に貼ってあるということでした。幼稚園も、小学校も、高校もそれぞれ卒業(園)式までの日数が数えるほどになってきました。
鵠沼界隈も、二月に入り、梅が咲き始め、見頃となり、ここのところは梅も盛りを過ぎた感があります。春一番が吹き、雪模様があり等々の中で、「行きつ戻りつしながら、少しずつ春への歩みを進めている」、二月はそんな表現もできそうです。
学園では、節分を挟んで中学入試が行われました。今年も多くの受験生に出願いただいたことに感謝申し上げます。18日には新入学予定者への説明会が行われ、外部から進学する方も内部から進学する方も、入学へ向けての希望を新たにされたのではと思っています。四月の入学を心待ちにされている皆さんの期待に応えるべく、中高の教育活動に工夫・改善を加え、更なる充実を図ってまいります。
そして、二月は、幼稚園、小学校においても大きな行事が行われました。
幼稚園では、2月16日、年長組最後の発表会「さくら子ども会(表現発表会)」が催されました。
年長児60名が力をあわせての劇、そして、さくら1組、さくら2組、クラスごとの和太鼓演奏が発表会の内容です。年長組の幼稚園生活を飾る最後の行事ということもあり、当日幼稚園ホールは、年中組、年少組、そして大勢の保護者の方で一杯となりました。
最初の出し物は、劇「浦島太郎」。60名の年長児がそれぞれの役に扮しての劇です。私がまず感心したのは、在籍する60名全員が揃っての発表会ということでした。寒いこの時期、風邪をひくこともまれではありません。しかしながら、一人の欠席もなく、全員が協力して最後の大きな行事を作り上げることができたと知り、何よりもうれしく思いました。もちろん、ご家庭での健康管理があってこそということで保護者の皆様には感謝申し上げる次第です。
「浦島太郎」については、園児が配役を自分たちで決め、衣装や小道具も自分たちの手で一生懸命につくるなど、早くから丁寧な準備、練習を進めてきました。その準備、練習の成果が発揮され、40分をこえるミュージカル風の劇は見応え十分でした。手づくりの衣装、歌に踊りに息のあった演技、劇の途中には観客席からの手拍子で演じ手と観客が一体となる場面もありました。子どもたちの互いの協力が随所に窺え、三年間の幼稚園生活の総仕上げにふさわしい立派な出来ばえでした。
和太鼓の演奏は、一年間取り組んできたリズム遊びの集大成としての発表ということです。平太鼓、締太鼓、かかえ太鼓、桶胴太鼓、宮太鼓の五種類の和太鼓の力強い音がハーモニーとなって幼稚園ホール一杯に響き渡ります。息の合った演奏、しっかりした撥さばき、きびきびした動作。子どもたちの成長、そして日本の伝統音楽の良さを併せて感じることができた見事な和太鼓演奏でした。
保護者の皆様には、卒業間近のこの時期、改めてお子様の成長を確認された「さくら子ども会」だったのではないでしょうか。
幼稚園の「子ども会」(「さくら子ども会(表現発表会)」)についてのこの文章を書いているところに「幼稚園だより」(2月24日発行)が届きました。今回で22号になる「幼稚園だより」は毎号興味深く、いろいろなことを考えながら読ませてもらっています。22号にぜひご紹介したい一節がありました。
今回の「幼稚園だより」には、「子ども会」当日に向けて、例えば「浦島太郎」の劇を完成させるための子どもたちの取り組みの様子が詳しく記されていました。多くの課題がある中で、園児一人ひとりが自ら発信し、さらには仲間との話し合いを重ねながらその課題を克服し、劇をつくりあげていったことがよく伝わってきました。「自己決定」が主体的な姿勢になり、「自己肯定感」や「自己責任感」にもつながっていることがより具体的に伝わってきました。
上記引用の「湘南学園は、このようなことを大切にした保育を行っています」という言葉は、湘南学園幼稚園の自信と誇りのあらわれのようにも感じています。そして、忘れてならないのは、「保護者の皆様のご理解」、併せて、「教える側のじっくり待ち、子どもの成長を見守りながら後押しする姿勢」であろうということです。このふたつが、引用した言葉の背後にあることを見落としてはならない気がしています。
「湘南学園幼稚園が大切にしていること」、これからもぜひ大事にしてほしいと思っています。
小学校では、2月18日、19日の両日、「制作展」が開かれました。
「制作展」は、学園小学校一年生から六年生までの全児童が、小学校ホールを会場に、図画工作や家庭科などの授業で取り組んだ作品を一堂に展示する年一度の制作発表会です。同時に、制作展は、「たいいく表現まつり」、「音楽会」と並ぶ、学園小学校の年間の大きな行事のひとつとなっています。
当日、会場は、保護者の方々やご家族の方々が多数ご来場され、それぞれの作品を熱心にご覧になっておられました。
湘南学園小学校ならではと言うべきでしょうか。一人ひとりの個性が感じられる伸びやかで創造性豊かな作品の数々。感動を覚えながら鑑賞しました。
例えば、一年生の「お話の絵 ウクライナ民話『てぶくろ』」。『てぶくろ』という民話を子どもたちそれぞれがイメージ化し、それを絵にあらわしたものです。子どもの豊かな想像力、そしてそれを作品に具現化する力に驚かされる思いでした。
あるいは、二年生の紙版画「花笠踊り」。たいいく表現まつりで、元気よく踊った花笠踊りの中の自分が気に入ったポーズを版画にしたということでした。躍動感に溢れ、たいいく表現まつりが思い出されました。
三年生の水彩画「シクラメン」。毎週変化していくシクラメンを観察し描いた作品です。とらえる角度、対象としたシクラメンの色等、それぞれに個性があり、細部まで目が行き届いた丁寧な仕上がりに引きつけられました。
四年生の木版画「生き物」。彫刻刀の特徴を生かし、彫刻刀を使い分けながら彫った作品です。「生き物」が生き生きと描かれ、まさに力作揃いでした。
五年生の紙粘土「御神楽」。二年生は版画でしたが、五年生は、たいいく表現まつりの踊りを紙粘土で立体的に表現してあります。いろいろなポーズをとる踊り手が、そこにいるようで、「御神楽」の踊りが再現されている感すら覚えました。
六年生の砂絵「音楽を聴いて」。音楽を聴いて、心に浮かんだイメージを色や形で砂絵の抽象絵画に表現した作品です。さすが最上級生ということで、作品の完成度が高いのは言うまでもありません。さらに、注目したのは、それぞれの作品につけられたタイトルでした。例えば、「チャイコフスキーの二つの音色」、「銀河鉄道の朝」というようなタイトルから、「時のはざま」、「世界のとびら」、「カオス~こんとんの世の中~」といったタイトルまで、想像力と創造性の双方が感じられるタイトルと作品は見事なものがありました。
ここに紹介したのはほんの一部分であり、例えば一年生は、お話の絵のほかに、粘土「シーサー」と紙版画「歌っている顔」という作品の展示。六年生を例にとれば、砂絵のほかに、スクラッチアートグラス「動物」(動物の毛並みまでが繊細に表現された実に味わい深い作品群でした)と樹脂粘土「ランプシェード」の展示等々、各学年三種類の作品を完成展示しています。
さらに家庭科で作った「きんちゃく袋」や「ウォールポケット」、あるいは家庭科クラブ、漫画クラブ、プラモデルクラブ、消しゴムはんこクラブによるクラブ単位の作品、加えて、膨大な文章に写真や資料を添えた力作揃いの六年生「修学旅行記」を始めとする学年や教科で取り組んだ作品まで、まさに学園小学校ならではの「制作展」でした。
湘南学園小学校は、「豊かな学力と人間性の追求」を学校づくりのテーマに掲げ、子どもたちの成長を図っています。
制作展は、「豊かな学力と人間性の追求」がひとつの形としてあらわれている行事であり、学園小学校の総合力があらわれている行事であるということを確認するような思いをもちました。同時に、あれだけの素晴らしい作品の完成に向けて注がれた子どもたちの努力の重み、それを支える先生方の指導等にも思いを馳せながら会場を後にしました。
湘南学園が多くの方々に支えられていることは改めて申し上げるまでもないことです。中でも、保護者の方々との連携・協力は本学園の大きな特色のひとつと言えます。本学園は、創立以来、保護者と教職員が手を携えながら、子どもたち一人ひとりに丁寧に目を注ぐ、手づくりの良さを大切にする教育を進めてきました。いわゆるPT協働は、本学園の特色であり、誇りでもあります。そうした特色の中で、PTA活動も活発に行われています。PTA活動の中には、サークルごとの活動もあり、そのひとつに読書サークル「くわの実」があります。
「くわの実」は、定期的に読書会を行っており、今回(2月21日)は、「金子みすゞ」が取り上げられました。毎回講師としてお招きしている方が、元学園小学校教諭の中村登喜子先生。中村先生のご用意されたレジュメや資料をもとに先生から丁寧なご説明があり、その後各自が感想を述べ合う読書会になっています。
前回は前半部分だけ参加させていただき、今回はやや遅れてではあったものの、最後まで参加させていただきました。
四年前に山口を旅する機会がありました。二十数年前に文部省の全国研修に参加する機会があり、つくば市にある研修所で全国から集まった先生方と36日間起居を共にしました。研修時に同じ班だった仲間が、その後二年ごとに、それぞれの地元を会場に会合をもっています。四年前は山口県の仲間が幹事となり、萩で会合をもつことになりました。折角の機会ということで、長門市仙崎にある金子みすゞ記念館を訪ねることにしました。夏の暑い時期でしたが、記念館でしばし金子みすゞの世界に浸ることができたことは、仙崎の佇まいと合わせよい思い出になりました。そのような思い出もあり、今回の読書会も楽しみに参加させていただきました。
中村先生は、いつもながら詳細なレジュメと数多くの資料をご用意くださり、会に臨まれます。今回もレジュメや資料を踏まえた先生からの丁寧なご説明で、金子みずゞについて理解を深めることができ、また珠玉の作品に新たに出会うことができました。そのことは非常にありがたいことでしたし、参加された十名ほどの保護者の方々のご感想を伺うことができたこともまた貴重なことでした。
保護者の方々は、ご自身の生き方の部分と金子みすゞの作品を重ね合わせられた方もおられましたが、それ以上にお子様との思い出にみすゞの作品を重ね合わせていらっしゃるように思いました。同時に、保護者の方々がお子様の成長を願うにあたり、金子みすゞの作品を味わうことができるような「こころ」をもってほしいというお気持ちがあることも窺わせていただきました。そうしたことも含め、保護者の方々のいろいろな観点からの感想をお聞きする得難い機会にもなりました。
中村先生が取り上げられた詩で印象に残った作品がありました。「つもった雪」という作品です。
雪を表面からだけ見るのではなく、上の雪、下の雪、中の雪と分けてとらえ、それぞれに思いを寄せる金子みすゞの想像力と感受性。
このような思いで相手に対応できたら、また、子どもたちがそのような「こころ」を育んでくれたらと願わずにはいられません。
もうひとつ印象に残った作品があります。「はちと神さま」という作品です。
誠に深い内容の詩であり、感嘆の念を覚えずにはいられませんでした。このような自然や生き物に対する向き合い方、世界観、そして宗教観。金子みすゞの「偉大さ」としか表現できないような感性や、金子みすゞの「哲学」とでも呼ぶべきものを感じました。
読書サークル「くわの実」は長い歴史をもち、地道な活動を継続されています。「くわの実」に参加されている方々のみならず、自ら研鑽をされ、お子様とともに成長を図られている保護者の皆様に湘南学園は支えられています。
幼稚園の「さくら子ども会(表現発表会)」、小学校の「制作展」、PTA読書サークル「くわの実」の読書会。
こうした行事に参加しながら、「共にそだつ」ということを考えた二月でした。