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第222回 全学教育研究集会「プレ企画」紹介

2021年7月14日

 湘南学園は幼稚園・小学校・中学高校を併せ持つ総合学園であり、最長15年間にわたる学園生の成長に関わっていける貴重な条件に恵まれています。
 幼小中高各パートの専任教員がお互いに日常の教育実践を交流したり、新たな教育の視点や今後の課題を深める機会を設けたいとの願いから、全学的な「教育研究集会」の8月開催を中心に全パートで参集して連携を進めています。
 今回は、本年度の「全学教研」についてお伝えします。
 
 昨年度は全国一斉臨時休校から始まり、従来の夏休み期間も不規則なスケジュール編成を余儀なくされ、全学教研を実施できませんでした。今年度は全パートのメンバーによる「全学教研実行委員会」を再び起ち上げ、コロナ禍の一年半の子どもたちの生活を振り返り、気になる現実を話し合うことから始めました。
 過去9年間の全学教研の軌跡も参照し、各パートで様々な制約下であっても、学園生の学びやチャレンジを可能な限り保障しようと「オンラインの利用」も含めて知恵や工夫を凝らし、学園生も自分事として「こうしたら実現出来る」と参画してきた教育活動についてたくさん共有し、見えてきた新たな課題を語り合える機会にすることが合意されました。今年の主題は、以下のネーミングになりました。
 <コロナ禍の子どもと学園教育 withコロナの一年半と、これから>

 メインとなる全学教研は今年も8月下旬に予定されますが、昨年出来なかった分もカバーして研究機会を増やそうと、「プレ企画」や「アフター企画」(秋実施)も組まれており、今回の通信では6月30日に実施された「プレ企画」についてご紹介します。
 
 『ちょっと気になる?!・・・子どもの心とからだ』というテーマのオンライン講演会で、講師は、日本体育大学教授の野井真吾先生でした。
 野井先生は、NGO団体『子どものからだと心・連絡会議』の議長を務められ、長年にわたって日本の子どもたちの状況を分析し、健やかな成長を願う各界関係者の議論や協働作業をリードされ、学校と家庭への提言を続けてこられた、全国的に著名な研究者の先生です。
 大変ご多忙のなかを学園のために都合をつけてくださり、講師を務めてくださいました。圧倒的な感銘を受けた野井先生のレクチャーから、私たち教員や保護者が学べてすぐにも実行できると思われたご提言について、概要を紹介させていただきます。
 
 現代日本において、子どもたちの次のような様子は、日頃から多くのおとなの「気になる」実感として共有されることではないでしょうか。
 「すぐ疲れる」「朝起きられない」「夜眠れない」「(保育や授業中も)じっとしていない」 「すぐ寝転がる」「首や肩がこる」「ずっとふさいでいる」etc.
 ・・・病気や障がいではなくても健康とはいえない、こうした子どもの様子。そうした“おかしさ”に注目してその背景を分析し、働きかけていく重要性が指摘されます。 
 
 「疾病や体力テストの年次推移」、「睡眠時間と通学意欲」、「平日&休日や長期キャンプにおけるメラトニン代謝の推移」など長年にわたる観察資料から考察がなされ、子どもたちの体調不良の原因が分析されていきます。
 そして「自律神経機能」を整える家庭生活の工夫や学校の指導が大切なことが説かれます。冷暖房や照明も便利過ぎて、「太陽の光」や「適度な身体活動」が乏しく、「規則的な食事摂取」や「時間を意識した生活」が崩れがちな子どもたちの姿が確認されます。
 特に睡眠導入に重要なホルモン=「メラトニン」の分泌が損なわれています。生活リズムを整えて「自律神経のバランス」を改善するために、野井先生は、「光・暗闇・外遊び」という提案をされます。復唱しやすいスローガンとして注目されます。
 朝起きた時、日中の過ごし方、夕方以後就寝までの心掛け。大人の我々にも「生活の道しるべ」となる提言です。「朝日を浴びる住まいを工夫し、夜はあかりを減らして暗くする」などすぐにも実行できると思われる内容でした。従来の「早寝・早起き・朝ごはん」という健康生活のバロメーターを補い、少し頑張れば実行できる呼びかけでもあります。
 
 次に「前頭葉機能」の重要性が、脳生理学の研究成果を駆使して多数の図表ともに判りやすく解説されました。「前頭葉」は大脳の部位の1つで興奮と抑制をコントロールする機能を持っており、子どもたちの類型的なタイプとして「不活発型・興奮型・抑制型・おっとり型・活発型」と大きく分けられることが説明されます。
 集中力が続かない、落ち着きがない、自分の気持ちを表現できない、そうした子どもたちの「前頭葉機能」を刺激するためには、何よりも「ワクワク・ドキドキ」の経験が用意されることが肝心だと野井先生は提言されます。親子で夢中になれる遊び、幼稚園や小学校で長く大事にされてきた素晴らしい教育実践が紹介されました。子どもらしく感情を発散して全身で関わり合える遊びこそが特に幼児期には大切なのです。
  
 コロナ禍に襲われ、子どもたちの環境は更に厳しい試練に直面しました。昨年の全国一斉臨時休校から生活リズムや食習慣が一層乱れたり、運動不足やストレスや孤独が続きました。
 全国的な調査結果では、子どもの困りごとは「友だちに会えないこと」「思うように外へ出られないこと」などが際立ち、保護者の心配ごとは「運動不足」「勉強を教えてもらえないこと」「外へ出られないこと」が上位でした。

 野井先生は「身体的な3密は回避しつつ、精神的な密をどのようにつくるか」が鍵であり、「フィジカルディスタンス」と表現すべきであると述べられます。コロナ禍でも「大学9月入学案」に示されたような子どもや若者の意見表明権が保障され、学校では子どもの参画をいろいろな場面で保証して共に考えて取り組むことが大事だ、と指摘されました。
 そしてコロナ禍において、子どものからだと心のSOSサインを見逃さないように気をつけ、大人も楽しみ・のんびり・輝きながら「よい加減」の生活を探求していくことも大切だと述べられました。リラックスして小さな試みからやってみることです。高齢者になっても「ワクワク・ドキドキ」できる対象が人間にとって大切です。
 
 今回のオンライン講演会には、学内の拠点ルームへの出席だけでなく、各自宅も含めた様々な場所から、幼小中高の多数の先生方や中高教育実習生の人達も参加してもらいました。寄せられた感想から一部を紹介します。

 「自分の経験や生徒の様子を思い浮かべて、なるほどあれはこういうことだったのか、と納得できるお話ばかりでした」/「(行事帰りの参加で)ワクワクドキドキの2時間でした」/「夏休み前ですごく疲れていたけど、ああ自分がやっていることはこういうことだったのかと気持ちがスッとしました。ほんとに聞けてよかった。自分の子どももそうやって育ってきて良かった!親としてすごく共感できました」/「オンライン講演だったので妻と共に拝聴しました。自分たちの子どもも伸び伸びと育てねば。」

 幼小中高を通じて、日頃大事にしてきた学園教育の願いや方向性について、改めてその視点とか価値について自信や展望を持てる機会になったことが、何より嬉しいことでした。
 学園教育は、子どもたちが主体的に決めて取り組むことを何より大事にしています。
 
 質疑応答では、若い先生方からも切実な質問が寄せられ、野井先生は「大事な質問をいただいた」とその都度尊重され、間髪入れず各質問に即応した資料を画面に提示され、明快な補足説明をされました。特にネット依存、SNSやゲームに没頭して生活を崩す子どもの状況やeスポーツの振興をどう捉えるべきかなど注目される問いかけがあり、的確なご回答によって理解を深められました。
 最後のまとめでは、「動いてヒトになり、群れて人間に進化してきた」人間発達の軌跡をふまえて現在の「教育改革」の内実を捉え返すこと。「Education」とは「教えこむ」ことではなく「外へ引き出す」こと。「その子その子の発達要求を見究めて支援していく協働」がこれから更に大切なこと。そうした教育の視座についてご教示をいただきました。
  
 この通信をお読みになられた皆様には、子どもたちの現状を深く洞察され、子育てや教育実践の方向に実践的な指針を届けてくださる野井真吾先生のご提言に、ぜひ注目していただければと願うものです。先生のご著作など書店やネット紹介などでご参照ください。
 今回の学びの成果をしっかりと受けながら、来月下旬に豊かな「第10回全学教研」を実現するべく、実行委員会とレポーターの先生方で取り組んでいきます。
 
 学園長通信はこの先お休みをいただき、9月1日から再開する予定です。
 コロナ禍の制約が長期化して不安やストレスをぬぐえない日々ですが、子どもにとって貴重な夏休みのシーズンを迎えます。「家族と共に経験したいこと」「頑張って取り組みたいこと」「自分の実力やスキルを高めたいこと」・・・それぞれの願いや目標を大事にしてほしいものです。
 皆様どうかお身体をご自愛され、ご家族そろって充実した生活を送られますようお祈り申し上げます。