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第227回 全学教研集会・オンライン開催(2)

2021年9月29日

 前回の続きで、8月下旬にオンラインで開催された、「第10回全学教研集会」の内容をご紹介します。
 片岡洋子先生の講演に続いて、『GIGAスクール構想と主体的・対話的で深い学びのゆくえ』と題して、都留文科大学教養学部教授の佐藤隆先生の講演をお聴きしました。
 佐藤先生は、湘南学園全学教研にとって大事な恩師の方です。全学教研の「共同研究者」並びに「コメンテーター」として長年にわたるご指導をいただいてきました。また同窓会や後援会のご支援も受けて学園の先生方が参加できた、「2019フィンランド教育視察ツアー」も、佐藤先生のサポートやガイドを頂戴して実現できたことです。学園主催の他のイベントでもご来園いただき、貴重なご教示を寄せていただいています。
 
 まず佐藤先生は、この全学教研の歩みを振り返り、小中高の総合学習の発展や幼稚園のあそびを軸とする豊かな保育実践、子どもの主体的な自治活動や表現活動、ESDの視点や教科横断的な視点での講座設定やカリキュラム再構築など、様々な実践報告が積み上げてこられたと評価されました。それは、国際的な新教育運動の指導者であるジョン・デューイの学説に照らしてみても、子どもの内側から出る興味や意欲を大事にする方向と合致しており、文部科学省が近年提唱する「主体的・対話的な学び」の呼びかけにも応える内容になっている、と指摘されました。

 他方でコロナ禍の情勢を通して、また一方新しい学習指導要領への移行が段階的に進行していく中で、日本の教育行政の中で新たな主張が強まっていることにもしっかり目を向けていく必要があると述べられました。従来の対面中心で「リアルな」教育活動に制約が増す中でICT機器の利用が必須となってきたが、その中で昨年文科省が提示してきた「GIGAスクール構想」に立ち止まり、この構想を深く考察する必要があると述べられました。
 「一人1台端末と高速大容量の通信ネットワーク」を整備して、多様な子ども一人ひとりに「個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境」を実現するという新構想について、推進する人びとの目標や背景を分析し、開始された「個別最適な学び」の先行事例を詳しく例示してその問題点も考察されました。

 個別の子どもの学習と成績の履歴に、子どもの気持ちの「見える化」の記録や、「日常所見」「要学校内情報」など広範なデータが1枚の枠に収録され、AI解析にも生かされる例が紹介されます。
 佐藤先生は、その子の「個別最適」という名の「身の丈に合った」学習課題に取り組ませることがメインとなって良いのかと問いかけます。そしてこの構想に続く「学びのSTEAM化」の構想と、その実現にとって「障害になっているのが現在の学校(「制度)」であるとの主張について批判的に考察されます。「一律・一斉・一方向型の授業形式」や「同学年・同教室・同時に集まる」学び、「標準授業時数の一律履修」を前提にするしくみは時代遅れであり、民間企業も含めた広範な学外の協力を集め、新たな学習プログラムの開発とそのデジタルコンテンツをインターネット上に置く「STEAMライブラリー」の構築を推進すべきだという動きです。こうした施策が主流になれば、安易な「学校解体論」まで登場し、子どもの願いや意欲から出発する教育実践が低迷し、子どもの学習権を保障することにはならなくなるのではないか、と佐藤先生は提起されました。

 企業が求める人材プログラムの推進のために子どもを操作する方向に教育が傾斜してはならないし、学校でしか出来なかった取り組みを失うことはあり得ないことだ、と述べられました。この一年半、コロナ禍の苦しい経験を通して、「子どもが集まり触れ合い、共に学び活動し挑戦する拠点」として学校が持つかけがえのない意義や役割について、世界中の子どもや教員や大人が確認したはずであり、広く世界の動きを知り、自分を発信する道具としてICTの技術は不可欠なツールであることは誰もが実感されることだが、学校の持つ大事な力を改めて深く実感し認識するべきではないか、と先生は説かれました。
 
 文科省が「主体的・対話的な深い学び」という新たな目標まで敢えて提唱したことを活用し、日本の学校現場で蓄積されてきた「主体的な学びを育む」優れた教育実践を学び直すことが大切であると述べられ、先生はそうした教育思想の源流として、国際的な新教育の一翼を担ったジョン・デューイに改めて学びたい、と提起されました。

 デューイ(アメリカの教育者)は、子どもの興味こそが原動力であるとし、「対話への興味」「探求への興味」「制作への興味」「表現への興味」の4つを挙げました。子どもの内側から発せられる意欲をいつも大事にする取り組みを広げていこうと呼びかけたのです。佐藤先生は、デューイが述べた「子どもに内在する自然の資源」に対して信頼を寄せ、子どもの内側から問いを育てていく観点が、これからも学園教育に更に根づいていき、子どもたちが旺盛に学んで成長していくことを期待していします、とのお言葉で講演を結ばれました。
 
 実行委員長の有薗先生から、終わりにあたって以下のような挨拶がありました。

 「学力をめぐるいろいろな厳しい実態を受け、学力の診断や補充でICTの活用も広がりましたが、人間が幼児期からICT機器やAI利用に囲まれるようになった環境のもとで、改めてこの問題の重要性を認識することができました。」
 「昨年出来なかった全学教研、困難にまけずオンライン開催でもぜひやりたいとの願いがかなって実現でき、午前中だけでしたがお二人の先生の講演から大切な学びを共有することができました」、「各パートから寄せていただいた幼小中高の貴重な実践レポートについては分科会の交流が出来なくて残念ですが、各パートと全学で共有できるようにするので、全学の相互理解も願ってぜひお目通しくだい」、「アンケートに本日の感想・質問などをぜひお寄せいただき、こちらも今後の意見交流をはかっていきたいです」
 「やっと実現できた全学教研。大事な宝物や宿題をいただいた気持ちです。コロナ禍の中でもこうした機会を大事にしていきたいです。ご協力、本当にありがとうございました。」
 
 各パートから寄せられた実践報告も、タイトルだけですがご紹介しておきます。

〇<総合の実践 未来に、花は咲く!!だからそれを信じて、タネをまこう。>(小学校)

〇<「現代社会の抱える問題」に生で出会い、主権者として成長する子どもたち>(中高)

〇<幼稚園で見えた子どもたちの力>(幼稚園)

〇<湘南学園小学校の児童会活動>(小学校)
 
 最後に当日の感想交流より、現場の先生方のお声から、ごく一部ですが紹介させていただきます。

〇コロナ感染拡大が心配される中での教研。オンライン開催となり他パートの先生方とは交流はできませんでしたが、全パートの教員が同じ講演を聞くことができたことは、実りがあったと思います。子ども達を温かく受け止める、心の声に耳をかたむける、お互いに認め合える子ども同士の関係性を作れるような雰囲気を、私自身心掛けて子どもたちを迎え入れたいと思います。

〇片岡先生のお話を伺い、語りを否定せずに関心をもって聞いてくれる人がいるから“本音”を伝えられる、というところや自分の経験に名前、意味を与えられ概念を学ぶ、というところに幼児期の子ども達にも特に大切なところだと感じた。良い自己、悪い自己とも両方その子だとまるごとその子を認めていけるよう子ども達とかかわっていきたいと思う。こども期に子どもでいられなかった人のお話では自己を解放するまでの過程では涙が出た。自他の多面性理解できるように、発達段階を踏まえていこうと再認識できた。この2学期を迎える時期にこのような機会をつくっていただきありがとうございました。

〇様々な事例から、子どもの気持ちを受容することの大切さを改めて知ることができました。子どもの気持ちを代弁し、周りの子どもたちと一緒に理解し、考えていくことで子どもたちが自分自身の気持ちを受容できるようになるのだと学ぶことができました。子どもたちがその時何を感じたのか、子どもたちの思いを聞くことを以前よりも意識して、今後関わっていきたいと思いました。子どもたちの思いを大切に、寄り添っていきたいです。

〇気持ちを表すことの大切さと、それが充分にできていない子どもたちがいることを知りました。学校では、劇などで感情を解放するような活動を取り入れているが、コロナ渦で難しくなっているという話を聞いて、感情を表現できない環境にいる子どもたちというのは、遠い人たちの話ではないと実感しました。自分の話をして、それを否定せず、関心をもって聞いてくれる環境をクラスにつくりたいと思いました。

〇自分を語れるというのは、それを聞いてくれる人がいるということが大事なんだと改めて感じました。子どもたちが安心して自分を出す、それが子どもらしさであるとすれば、今のクラスの子どもたちが親の期待を裏切らないようにがんばったりと、少し無理をさせているのかなと思いました。また、たくさんの詩を紹介いただくなかで、私も日記に取り組み子どもの本音を聞こうとしていましたが、「聞こう」というのでなく、「話したい」と思えるような関係を作っていくことが大事だと思いました。どうしても「事実」に目がいきがちですが、子どもの思いやその行動の裏にあるもの、などを丁寧に読み取り、子ども理解につなげていきたいと思います。

〇どんなに過酷な環境で虐げられて育ってきた人も、自分の感情や経験を表現し、他者に聞き取ってもらう中で、自分の感情に気づき、損なわれていた自己感覚が回復していくことに、希望を感じました。安定的な関係・環境に支えられながら、自己感覚や他者感覚を育てていくことが、他者を受け入れ、共に生きていく力を身につけるために大切なこともよくわかりました。教室の中で、子どもたちが安心して自分を表現できることを、もっともっと大切にしていきたいと思います。GIGAスクール構想の大波に翻弄されていますが、私達の目指す教育は、個別最適化=身の丈に合った教育とは相容れないものです。GIGAスクール構想に振り回されることなく、「世界を正しく読み解き表現するICT技術」として子どもたちに手渡していけるようにしたいと思います。

〇(片岡先生)とても共感的にお話を聞きました。権力をおだやかに使う教育が、子どもたちの個人の尊厳を担保し、自己評価を高めたり、自立を促したりするという考え方は、私も大切にしています。また、感情を言葉にしたり、作文にしたりして、それを受け入れられることが大きな意味をもつことも、大事なことだと思っています。
(佐藤先生)「主体的、対話的で深い学び」と「(GIGAスクール構想における)個別最適化」というキーワードを対比させる中で、教育の本質を考えさせる内容で、こちらも共感しながら聞きました。当然、「主体的、対話的で深い学び」を大切にしています。人を育てるために、そのような授業を実現させたいです。ただし、例えばTOEICで良い点を取るために、効率的に学びたいという子どものねがいがあることも事実でしょう。そういう子にはICTを利用した学習方法を選択肢の1つとして渡せる教師でありたいと思っています。学びたいという意欲こそ大切にしたいですから。先の2つのキーワードを考えるには、「教育の目的」を考えることが大事だと考えました。教育の大きな目的は人を育てるですが、限られた場面では個別最適化された学習も役に立つこともあると思います。このテーマは、これからも考えていきます。

〇実行委員の皆様、準備から運営まで大変お疲れさまでした。片岡洋子先生、佐藤隆先生のお話、大変興味深く聞かせていただきました。教員生活で関わってきた卒業生の顔や保護者の顔が時折浮かびました。案内にありました、「コロナ過の子どもと学園教育」というところが、もう少し具体化されていると今後の実践につなげられたかと思いました。ありがとうございました。

〇大変勉強になりました。特にLGBTQの教育について、「当事者に会った時にどうするか、のために教育をする」というコメントが印象に残りました。・・・・・・
片岡先生のお話に出てきたちょっと落ち着かない少年、担任の先生に丁寧に自分の気持ちを代弁してもらったあとの素直な「うまくやれないんだ」という答えを聞いた時、うっかり泣いてしまいました。(リモートで良かったです。)私たち大人も誰かに代弁してもらえると、素直に「うん、うまくやれなくてごめんね」って言えるのかもしれません。子どもたちそれぞれを理解してあげたい、その気持ちの一方で、自分が「普通」であり、それがマジョリティであることがなんとなくでも分かっていると、無意識に自分の普通を押しつけてマイノリティを排除するような状況になってしまう。とても難しいです。今年度、女の子のトラブルを中心に話を聞く機会が多いです。子どもたちのそれぞれに背景があり、理解するのにとても時間がかかります。子どもたち同士はよくてもまた親御さんが関係するともっと時間がかかり複雑です。担任の先生だけで面倒みようと思ったら、他の子達は置いていかれるばかりです。多くの人たちでそれぞれ見立てをする、チームで子どもたちを見守ることと、孤立しがちな先生たちのケア(協力体制)の必要性を感じました。
 
 今回も長文になり恐縮でしたが、お読みいただきお礼を申し上げます。今後も、湘南学園の全学教研の取り組みに注目していただければありがたいです。