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第239回 2022年の始まり 過去から未来へ

2022年1月12日

 新年最初の通信となります。本年もよろしくお願いいたします。

 年明けから日本でも新型コロナの感染者が一気に急増しています。猛威をふるった「デルタ株」から新たな「オミクロン株」への置き換わりが進み、沖縄など3県にまん延防止等重点措置が適用され、日に日に全国で感染拡大が進行しているのです。
 ちょうど一年前は早々に1都3県を対象とする緊急事態宣言が出されていました。その後ワクチン接種も浸透して、一時は感染者数が激減したのですが、欧米など世界の情勢は深刻であり、日本も同様の事態が警戒されています。マスク着用、消毒や換気の励行、3密回避、デイスタンス確保などの基本を堅持して、「ウィズコロナ」の生活を引き続き耐え続けなければなりません。

 湘南学園も各パートで、やむを得ないプログラム変更も含めて、学園生の皆さんの年度末の学びや体験を可能な限り保障していくべく十分に検討して取り組んでいきます。
 
 「成人の日」の開催でも、全国各地で様々な模索や工夫がなされました。「大人とは20歳以上」という扱いが近年修正され、18歳から選挙権が与えられるようになり、今年4月からはいよいよ民法上の成年年齢も18歳に引き下げられます。

 先行世代である私達と次世代の若者達は「同世代に生きる」という点では対等であり、共通の使命というか役割を持っている、と改めて考えるものです。
 1つは人類の過去からの歩みを振り返ること、すなわち人類の歴史を知り、そこから未来の道筋を考えることです。人類史的なスケールの歩みを大筋でたどりつつ、特に前世紀から100年あまりの現代の歴史を可能な幅で詳しくたどることは共通に必要ではないでしょうか。例えばそこには多数の犠牲者を出した世界大戦もあり、コロナ禍に先立つ世界的なパンデミックの経験もあります。そこから学べる知恵や教訓がたくさんあるのです。

 いま人類が直面する気候変動、格差拡大、自国第一主義や国際対立などに対して、過去の過ちと克服の苦闘、人類全体の福祉につながる懸命の努力を具体的にたどることです。人類はどこからやって来て、この先どんな方向へ進んでいけるのか、人類が未来へ向けて前進できることに、確かな希望や自信を持てるようになりたいと思います。
 
 もう1つは、「未来のあるべき姿」を思い描き、「現行世代に求められる課題」を考えて実行していくことです。今回特に、感銘を受けた最近の新聞記事を紹介させてください。

 「未来について考えることは、私達が将来の子孫にとって『良き祖先(グッド・アンセスター)』であろうとすることに等しい。」・・・これは英国の文化思想家ローマン・クルツナリックさんの提起です。コロナ禍で発表した著書においてローマンさんは「行き過ぎた短期思考に覆われる」傾向を指摘し、「私達の関心は『今、ここ』だけに集中し、未来を見据えてなすべきことをじっくりと考える『長期思考』が欠けています」と述べます。

 具体例として「2100年の世界を思い描こう」という課題のワークショップに参加した時、「10歳の娘が生き続けているかもしれない世界を指すのだと気づいた」とし、「将来の彼女を支えているはずの自然環境や地域コミュニティーはどうあるべきか」、そんな『個人的視点』で思考をめぐらせたら、未来について具体的に語ることは可能になるのだと思った、と述べます。
 そして「子ども達やまだ生まれていない将来世代はまだ選挙権も市場に対する影響力も持てない」のに、「先行世代が好き勝手に生態系を壊し、先端技術開発の負の側面を後世に押し付けている」危うい流れに対して、「植民地」というキーワードを想起します。「かつて先住民の世界を征服して植民地化したように、いま私達は未来世代の資源などを奪い植民地化しているのではないか」と問いかけるのです。
 
 「未来の植民地化」という視点は、すでにコロナ禍以前から気候変動の領域で掲げられ、未来を担う若者からの抗議や課題提起も広がっていたが、コロナ禍の長期化のもとで後ろ向きな変化が起きていると警告します。短期的な成長維持の経済政策に回帰し、危機を理由に『今、ここ』だけに集中する時代に戻ってはいけない、とローマンさんは指摘します。
 そしてコロナ禍を『リセットボタン』と捉えて、未来世代の資源を奪わないよう循環型の経済を意識した街づくりを行政が後押ししている欧州の都市の事例を挙げて、「未来とはいま私達が働きかける現実の『場所』のようなものです。私達が危機の時代に未来をどうつくれるのかが問われています」と結んでいました。(以上1月1日朝日新聞「未来のデザイン・インタビュー」の記事から)
 
 ローマンさんの問いかけは、同時代を生きる私達誰もが共有できる課題意識だと思われます。これからの学園教育の方向性をサポートする1つの道しるべとして心に留めました。