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第246回 ユネスコスクールの大きな役割

2022年3月9日

 いま世界の人びとは、ロシア軍のウクライナ侵攻という重大な情勢を注視しています。
 数百万人もの民衆が隣接する軍事大国のとつぜんの侵略により平穏な生活を奪われ、家族の絆を引き裂かれ、異常な恐怖の中で避難を余儀なくされています。
 凄まじい破壊と殺戮の事実や泣き叫ぶ子供達の様子を、ロシアの国民にもしっかり知って欲しい。国際的な包囲制裁やあらゆる外交努力により一日も早く停戦を実現してほしいです。 
 コロナ禍とも相乗する新たなこの危機を克服して希望ある未来を再建できるのか、国連を中心とする人類の強い連帯と努力が求められています。
 
 湘南学園では、中高が2013年に「ユネスコスクール」の加盟校になり、独自の「湘南学園ESD」を構築して推進しようと取り組んできました。ユネスコスクールは、国際的な「ESD」の推進拠点とされています。この先、幼小中高の総合学園としてユネスコスクールに加盟し、全学的なESDを展開していくことも期待されています。今後のウクライナ情勢に希望が広がるよう祈りながら、今回はこのテーマについてご説明いたします。

 「ユネスコ」は国際連合の専門機関の1つです。教育・科学・文化・コミュニケーション・情報の分野を通じて、平和の構築、貧困の削減、持続可能な開発、異文化間の対話に貢献することを任務としています。二度目の世界大戦が終わった直後に、世界で共有された不戦の誓いを土台に設立された重要な国際組織です。

 「ユネスコ憲章」の前文では、途方もない犠牲者を出した世界大戦への痛切な反省から「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と述べられています。同じ人間どうしが相互の生活や風習を知らず、疑惑と不信、無知と偏見を広げてきた事実を受けて、人類が相互に助け合い関心を持ち合い、人間の尊厳への理解を深める教育や、思想や知識の自由な交流を通じて、人類の知的で精神的な連帯を築き、永続的な世界平和を追求していくことが目指されたのです。
 
 ユネスコスクールは、そのユネスコの理想を実現し、国際的な平和と連携や交流を学校教育を通じて促進することを目的として1953年に設立されました。世界各国に仲間を広げて現在、180か国以上の国・地域で11,000校以上に増加しました。気候変動と地球環境問題を始めとする人類の複合的な危機に向き合い、「持続可能な地球社会」を築くため明確な教育目標を掲げる学校のネットワークが世界に広がっています。日本では特に東日本大震災を経て加盟校が増加し、ESDを重視する文部科学省や環境省の支援も受けてきました。
 ユネスコスクールは活動目標として、「地球規模の様々な問題に対して、次世代の若者が対処していけるような、新しい教育内容や教育方法の開発や発展を目指すこと」、「ユネスコスクールのネットワークを活用して世界中の学校、生徒・児童間や教員間の交流を促し、情報や体験を分かち合うこと」などをあげています。
 
 湘南学園の建学の精神には、「自分の個性を発揮して自分らしく幸せに生きていほしい、社会の進歩のために貢献できる実力ある人間に育ってもらいたい」との願いが根底にあります。
 加盟当時から中高では6年間を通して、社会に生きる人びととも広く出会って学ぶ総合学習や学校生活における全ての取り組みを統合して、生徒達の認識や行動力を豊かにしていくことを目指しました。将来広い分野で活躍する持続可能な社会の創り手を育てていくことを目標に、本校独自の「湘南学園ESD」を構築してきたのです。

 ESDとは、「地域社会や地球規模の諸課題を自分のこととして捉えて考え、その解決に向けて行動を起こす力を身につける教育」とも説明されます。“自分ごと”は大事なキーワードです。同時にESDは何か特別なプログラムを新規に開始することではなく、既存の教育全体を振り返って見直し、新たな方向付けで再構築していくことが重要になると指摘されています。
 
 教育のあらゆる場面で<ESDの視点>を浸透させていくことが大切です。教科指導や総合学習の指導とその連携はもとより、学校行事や部活動の指導、日常的な生活指導やHR指導、キャリア教育などもESDの視点で深め直し、相互の指導の結びつきも含めた見通しを持つことが大事になります。いわば“ESDの文化”を学校全体に浸透させていく努力が求められます。
 時には教員にとって、生徒達の自発的な学習を促す「ファシリテーター」や、学外の方々とも連携する生徒達の取り組みを支える「コーディネーター」になる役割も期待されます。そうした経験や場数を重ねる中で生徒達の主体性が高まり、洞察力や行動力が育まれていきます。

 答がすぐに出ない問題も考え続けて問い続けることのできる子どもや若者、学ぶ意味を主体的にとらえながら自分でツールを活用して探究していける次世代の人間を育てていきたいです。不透明さを増す現代社会において、自分なりのヴィジョンを持って周りの人達と協同できる「チェンジメーカー」の人たちが輩出されるような、湘南学園の将来が期待されます。
 
 コロナ禍は、学園生の主体性や課題解決力が発揮される機会ともなりました。幼稚園では宿泊行事の中止後に園児達が特別行事を提唱し、教員や保護者の協力を得て実現しました。日頃から「問いかける」保育で育まれた園児の意欲に目を見張りました。

 小学校ではたとえば海の体験学習からごみ問題を探求してイベント発表をしたり、食品ロス削減に関する調査提案をしました。中高では大事な生徒会行事の実現を希求する粘り強い検討と提案から数多くの実現に至るドラマがありました。自然保護や再エネ発電事業や地域産業再建に取り組む団体訪問などコロナ禍を念頭においたリサーチもありました。

 総合学園の環境にも支えられ、学園生の様々な学びや体験は継続・発展し、主体性が鍛えられていきます。総合学園としてのユネスコスクールの展開も今後期待されるところです。この先、大学生や社会人になってからそれぞれの持ち場で、培った人間力やリーダーシップが発揮されていくことを期待しています。
 持続可能な日本社会や国際社会を創っていく次世代の人たちの連帯も自覚しながら活躍していってほしいと願います。