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第14回 対人関係の悩みに新たな知恵を届けてくれる新書

2018年5月23日

 最近広く話題を集め、私からもお勧めしたい新書を、今日はご紹介します。
 『友だち幻想~人と人の<つながり>を考える~』、菅野仁著(ちくまプリマー新書079)という本です。裏表紙にはこう記されています。

友だちは何よりも大切。でも、なぜこんなに友だちとの関係で傷つき、悩むのだろう。人と人との距離感覚をみがいて、上手に<つながり>を築けるようになるための本。

 この本は、SNS時代の本格的到来に先立つ2008年に発行されました。でもまるで、いま現在の社会に届けられたような知恵やメッセージがあります。

 筆者は、友だちとの関係を何よりも重視する傾向の強い日本の若者たちが、友人関係に気をつかいすぎて疲れたり、不安を抱え続けたりする状況を指摘します。

 そして「人と人とのつながり」の常識を根本から見直して、対人関係が窮屈になる理由を考え、他者との距離感や関係性をとらえ直して希望を見出すことを励まします。中高生や大学生などはもちろん、親や教員など大人にも役に立つ視点を届けてくれます。人づきあいが苦手な人はもちろん、人づきあいで急に行きづまった人にも「よく効くクスリ」になることが期待されます。

 “空気読めない(KY)な人”という象徴的な言葉があります。親しい友人関係の中で同調圧力が強まり、SNSの応答が面倒になり、若者たちが気疲れする状況が想起されます。教室やキャンパスなどで行き場のない鬱屈が重なり、相手の言葉や視線に傷ついて、リフレッシュが難しくなることも多いと思われます。

 菅野氏は、そうした対人関係のモヤモヤした世界を、斬新な独自のキーワードを用意して言語化し、「見取り図」に表した上で助言をしてくれます。
 この一冊は、筆者の専攻する社会学の入門書にもなっていると理解されます。

 特に心に残った指摘から、2か所だけ例示してみます。

・親しいはずなのに、その場にいない友だちの悪口を言うことがよくある。これは「スケープゴートの理論」から説明できる。親しさを確認しあう小さな人間関係に身を置くと、いつそこから自分が排除されるかも知れないという 不安にもおそわれやすく、その場の親しさを再確認することに追われやすい。

・思春期においては、親の「包摂志向」と子どもの「自立志向」がぶつかり合う。これは親子双方にとって必要な葛藤でもあるだろう。ただし親は、子どもが自立できる方向を見定めながら、丁寧に手間暇かけて育てるという視点も必要である。子どもの表面的な言い方や勢いにまどわされず、その成熟度を見きわめながら子どもを支える力が親には求められる。
 

 「友だち幻想は自分にとっても、今なお現在進行形の問題です」と菅野氏は述べられていました。先生は二年前に若くしてお亡くなりになっていると知って驚きましたが、後に続く人びとに有益なガイドブックを残してくれました。

 「複雑な人間関係の中で必要以上に傷つかずにしなやかに生きていく」ために、私も時々この本を参照していきたいです。短時間で読み切れる薄手の新書ですので、興味を持たれた方はぜひお読みになってみて下さい。