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第69回 「ひとりぼっちのキリン」の物語

2019年1月23日

 新聞の書評に接してすぐに購読を決めた、ある児童文学書について、今日はご紹介をさせていただきます。
 

 その本は、『ぼくはアフリカにすむキリンといいます』(偕成社)という不思議な書名です。表紙の色やイラストもインパクトがあります。
 18年前に主婦だった岩佐めぐみさんが、デビュー作として世に出した児童書であり、世界各地でじわじわと高い評価を集めました。
 そして昨年10月に権威ある「ドイツ児童文学賞」を日本作品として初めて受賞し、さらに脚光を集めることになりました。この間、韓国・台湾・ブラジル・メキシコ・中国・ニュージーランド・トルコ・ドイツで翻訳され、今後はロシア・ギリシャ・ルーマニア・ベトナムでも出版予定とのことで、驚くほどの国際的な反響です。
 

 そのストーリーは実に不思議な展開です。アフリカの草原に住むキリンが、とびきりの友だちを求めて、宛名の決まらない手紙を書きます。
 郵便配達を始めた別の生き物にお願いして届けられた手紙は、さらに配達をつながれ、はるか遠くに住むペンギンが受け取ります。「君のことを教えて下さい」との手紙への返信は、逆の質問も添えて、またはるばるキリンのところへ届けられます。
 おたがいのことをもっと知りたいと文通は続けられ、相手の姿への想像がふくらみます。退屈だった生活を一変させる楽しいドキドキは、登場する様々な生き物たちにも広がります。きっと読み手にも共有されることでしょう。
 そして両者はついに「ごたいめん」をはたします。・・・・・・これ以上はパスしましょう。ぜひ直接にこの物語をお読みになってみて下さい。

 キリンとペンギンが交わす思いやりと友情の成立は、一生懸命に運ぶ配達員の責任感、まわりのサポートと善意にも支えられています。
 高畠純さんの柔らかく、とぼけた感じのイラストが味わい深く、全体に流れるほのぼのした温かさは格別なものです。
 

 名作『モモ』も受賞したドイツ児童文学賞の、今回の審査では、「高い文学性を持ち、子供が実際に経験している世界と結びつく」と評価されたそうです。 
 多数の移民や難民を迎えており、クラスや地域に遠くの土地から来た見知らぬ子どもも多数いるという現在のドイツの社会。どう接したらいいのか、おたがい相手をどう受け入れるべきか、現実に直面する移民・難民問題にもつなげて大人が読んでいる動向もあるとのことです。
 

 お互いを尊重して出会ってみよう、相手の立場を想像しながら関わり語ってみよう、といったメッセージを受けとめる思いにもなります。
 見知らぬ誰かとつながる嬉しさ。相手をもっと知りたい気持ち。想像しながら書き、返信の封を切るドキドキ。「手紙」や「文通」とは距離を感じる世代の人たちはどう感じることでしょう。新しい友だちを求める感性を育てる書としても、強く推薦したい児童書でした。