第71回 コンプレックスを乗り越えること
「コンプレックス」は、誰もが持ち合わせる悩みといえます。仕事や人生で努力を重ねる上では成長のバネにもなるとも指摘されますが、本人だけが長くかかえこむ深刻な悩みもあります。今日はあるTV番組で触発された、「コンプレックス」をめぐる新たな動向についてふれたいと思います。
自分が思春期の頃にも、容姿のコンプレックスがありました。色白で体毛が薄いこと、頭が大きくて足が細めなことなどです。恥ずかしながら夏に「オイルを塗って肌を日焼けさせても、すぐに真っ赤になってポロポロむける」といった繰り返しもありました。
中高年になってお腹が出てきた体型も時々気になります。それでも他のことでいろいろあっても「自分は自分」と割り切れてきたかな、と振り返ります。
NHKの『クローズアップ現代+』(1月9日放送の回)で触発されました。特集は「コンプレックスも武器になる?!~時代は“ボディーポジティブ”~」というものでした。ご覧になっていない方にも概要を紹介したいと思います。
人間は多様な容姿や個性を持つから、肌の色や体型などでも多様な美を認め合うという「ボディー・ポジティブ」の考え方を広めよう、というのが番組のテーマでした。芸人として広範な人気を集める、渡辺直美さんと、斎藤司さんがゲストでした。
海外ファッションの世界で「プラスサイズ」という太めのモデルも登場するなか、渡辺さんは世界的アパレルメーカーのモデルとしてCMに起用されました。斎藤さんは「薄毛」も武器にして、「トレンディエンジェル」がM-1グランプリで優勝を果たしたことはよく知られています。
「外見上のコンプレックスを武器に変えよう」と挑んでいる、日本人女性バンドの「CHAI(チャイ)」という4人組グループも登場しました。ストレートな歌詞の熱唱は、全国や欧米のツアーが大盛況で共感を広げているそうです。「コンプレックスはアートなり!」がいつもライブ最初のスローガンです。
出演した皆さんは、いじめなど様々な辛く傷ついた体験も経て、「コンプレックスも武器にする」生き方を深めて、「ボディー・ポジティブの体現者」として活躍していました。
コンプレックスから引っ込み思案になるのは損だし、「みんなと違う部分が可愛く思えたらいい」し、「ネオかわいい」って捉えたらいい、という提起もありました。苦労した分だけ発信力があるし、他の人を勇気づけられると。
従来の画一的な美の基準から解放されて、自分のありのままの外見や体形を受け入れようという「ボディー・ポジティブ」の動きは、世界的なビジネスや社会に広まっています。「美の多様性」を許容しようと呼びかけています。
若い女性が「痩せなければならない」という強迫観念から食生活も歪んで健康を害する傾向が、深刻な社会問題となった背景もあります。
誰もが自分の容姿を「可愛いよ」「すてきだよ」と言ってくれる人に出会える可能性があります。自分の魅力を引き出す服装や髪形やメイクだってあるし、自分の自信あるところを伸ばして磨いたらいいのです。
もちろん心身の健康のためにダイエットすることも時には大事であり、体重の増減などは個人的な問題です。外見や体型の違いによらずに、全員が自分を愛することができて、自己肯定感を持てるような社会の実現をはかる文脈で、この動きを理解する必要があります。
「自分が気にするほど、他人は自分のことを見ていないよ」~これは若い人たちによく伝えられる言葉です。「人目を気にし過ぎないで、自分の長所に自信を持とうよ」とも話されます。
齢を重ねると若い頃に抱えていたコンプレックスがだんだん相対的に小さくなり、時にはどうでもいい隅っこの問題へとおちつくものです。学園生たちとの関わりでも助言する機会を大事にしたいと思います。