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第97回 好きな分野が仕事までつながる幸運

2019年5月25日

 「将来自分はどんな仕事についたらいいのか」のテーマは、すべての子どもや青年にとって重大な関心事でしょう。

 ずっと選べないまま大人になってふとした縁で就職が決まる人もいれば、数年間もの求職活動を経てやっとつかんだ職場で懸命に働く人もいます。
 そして、家業を引き継いで代々の使命感をもって頑張る人もいれば、偶然出会った仕事に取り組む中で「天職」の生きがいを得られる人もいます。

 小さい頃から好きな分野で働き続けられる人は一番羨ましく感じられます。自分がまず浮かぶのは、歌手や棋士の世界です。好きな歌や将棋に人生をかけてきた人たち。でもどんな分野でも第一線を長く維持して活躍できる人は少なく、人知れぬ圧力や苦しみも抱えていることが多いことが想像されます。

 それでも次世代の子どもや学園生には、「自分の夢を大切にね」「好きな分野の仕事で頑張ることができたらいいね」と伝えたい気持ちは変わりません。
 

 今日はそんなテーマについて述べたいと思います。自分がいま暮らす県央の都市出身で超有名人の「さかなクン」。このテーマでは最適の人物と思える方です。

 彼の大ファンであり、真似したくなるほど独特のキャラに惹かれます。膨大な魚類の生態や料理法についての圧倒的な博学ぶりは周知の通りです。ハコフグの帽子に象徴される無類の「魚愛」とコミカルで優しい人柄が印象的です。

 幼いころから魚が大好きで、水族館や魚屋にひんぱんに通い、自宅に多数の水槽を持って飼育しました。魚のことを調べまくり、いつも魚の絵を描く本人を、「好奇心が一番大切!興味ある事をどんどん探究するのは素晴らしいから、何でもずっと応援していた」という母親の子育ての姿勢も広く注目を集めました。
 中学時代に「スイソウ」の同じ発音で間違えて見学に行った吹奏楽部に入って、サックスなど楽器も好きで得意になった話もあります。中3の時に学校で飼育していたカブトガニの人工ふ化に成功し、高3の時に出場したTV番組『全国魚通選手権』で天才高校生と言われたキャリアも大切な通過点でした。

 動植物専門学校を卒業後は、ペットショップや寿司屋など魚関係の仕事を転々としながら好きなことを続け、卓越した魚のイラストが注目され、TVに再出演後はタレントの仕事が増えていきました。
 2006年にはあこがれの東京海洋大学の客員准教授に就任(現在は名誉博士の称号を得る)し、2010年には「クニマス」の生存発見でも脚光を浴びました。現在は千葉県に住み、飼育専門の建物も設けてお魚たちとの交流を楽しんでいます。

 なかなか稀な「サクセスストーリー」ではありますが、大好きなことや得意なことを皆生かして自分らしい生活と仕事を構築してきた、さかなクンの人生の軌跡には学ぶことが多いと敬意を深めるばかりです。まわりの人との関係をいつも大事にする温かい人柄も幸運を集めてきたものと感じられます。
 

 湘南学園の卒業生にもそんな生き方を実現してきた人たちに出会ってきました。お魚といえば、釣りが大好きで大学では海洋科学系を専攻し、東北の被災地域で水産会社に就職した卒業生のことをまず思い出します。

 欧州で医学を修めた卒業生は、「もし自分の中に好奇心があるなら、それが小さくても大きくても、まずその事について聞いたり、調べたり、挑戦して欲しい」と創立85周年記念冊子で在校生への助言を記していました。

 さかなクンは、「世界はきみが考えるよりずっと広い。居場所を見つけてみよう」との主旨を記していました。学園時代に自分が興味ある分野をどんどん深め、チャンスに出会ったら一歩踏み出して、進学や就職とも結びつけられる道すじを探ってほしいと思います。