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第138回 フランシスコ教皇の来日

2019年11月27日

 第266代ローマ教皇のフランシスコ教皇が来日しました。82歳という高齢でおられながら遠路日本、二つの被爆地を歴訪され、明確なメッセージを世界と日本の人びとに届けられました。今回は敬意を表して教皇の呼びかけを記し、心に刻みたいと思います。
 
 ローマ教皇の来日は38年ぶり二度目でした。前回のヨハネ・パウロ2世はポーランド出身で、東西冷戦の最中に訪れ、その終結や核廃絶の重要な動きにも影響を与えました。
 ところが現在は、当時の軍縮の成果までもが否定されるほど厳しい現実に直面しています。超大国のリーダー達の言動は、再び核軍拡へ向かうことを厭わない自国第一主義に満ちていると指摘されます。「持続可能な地球社会」の構築について、同時代に生きる私たちも責任を自覚し、教皇のメッセージを考えなければならないと思われます。

 フランシスコ教皇は、イタリア系移民労働者のご両親を持ち、アルゼンチンで生まれました。史上初の南北アメリカ大陸出身の教皇であり、史上初のイエズス会出身の教皇でもあります。
 ふだん公共交通機関を利用し、質素な日常生活の様子や、いつも気さくに街の人びとと語り合う姿が報道されました。世界に約13億人もの信者を持つローマ・カトリック教会の最高指導者が、庶民感覚豊かなお人柄でおられるのです。入会当初には日本で宣教師就任を希望していたという報道もありました。
 
 特別機で東京から長崎へ向かった教皇は、爆心地公園でスピーチをされ、「日本二十六聖人」の記念碑で殉教した人びとを悼み、県営野球場でミサを実施されました。さらに広島へ移動して、平和記念公園での集いで被爆者の訴えに耳を傾けてからスピーチをされました。

 「ここ(長崎)は核兵器が人道的にも環境にも悲劇的な結末をもたらすことを証言する町です」、「軍備拡張競争は貴重な資源の無駄遣いです」、「武器の製造や商いに財が費やされ日ごとに武器は破壊的になっています。これらは途方もないテロ行為です」、「核兵器から解放された平和な世界を実現するには全ての人の参加が必要です」、「一致団結しなくてはなりません。それは世界を覆う不信の流れを打ち壊す相互の信頼にもとづくものです」。・・・・・・これらのお言葉を深く心に留めるものです。

 「(広島で)核兵器の所有も倫理に反します。紛争の正当な解決策であるとして核戦争の脅威で威嚇することに頼ってどうして平和を提案できるでしょうか。真の平和とは非武装の平和以外にありえません」。
 
 ローマ教皇がこれだけの表現を重ねられて警告と提起をされたことに注目します。冷戦構造の終結と核軍縮の努力が続きながら、相互不信と敵意が再び増幅されています。有名な「終末時計」は、「地球滅亡まであと2分の地点」と冷戦初期の時代に匹敵する危機の深さを指摘しています。

 教皇は世界への発信地として日本を選びました。被爆体験を持つ高齢者から未来を担う若者たち、他宗教の指導者たちとも交流しました。この日環境問題にもふれ、「SDGs」について「達成のために真剣に考察しなければならない」と指摘されたことも注目されます。

 翌日には都内で開かれた東日本大震災の被災者とも交流し、犠牲者やその遺族に祈りをささげるともに、原発事故にふれて「地域社会でのつながりが再び築かれ、安全で安心した生活ができるようにならなければ、完全な解決になりません」「未来に対して考えるなら利己的な決断は下させません。私たちには未来の世代に対して大きな責任があることに気づかなければなりません」と呼びかけました。
 
 このような教皇の呼びかけに対して、日本の政府はもちろん、私たち市民も今後の課題を捉え直し、何が出来るのかを考えていきたいものです。多くの学園生もきっと教皇の呼びかけに注目してくれたことでしょう。歴史で学んだこととつなげて問題意識を深めてもらいたいです。