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第164回 東日本大震災から9年間を経て

2020年3月11日

 東日本大震災の勃発はちょうど9年前の3月11日でした。当時の体験について今回もまずふれさせていただきます。
 
 年度末の時期、中高生は部活動などで300名近くが登校していた日でした。困難の深まる中でも保護者のお迎えが続きましたが、100名以上の生徒が教職員と共に校舎内で夜を過ごしました。小学校でも真夜中までご家庭との連絡が続いてお迎えをいただき、全員が帰宅することができました。
 刻々と衝撃的な災害の広がりが報道されるなか、不自由な環境を皆で乗り切ろうと先輩達のリードで声をかけ合う中高生の姿を心にきざみました。そして大津波警報の発令を受けて湘南学園へ避難され、共に夜を過ごされた地域住民の方々も大勢おられました。
 PTAの方々のご協力が圧倒的でした。早くから周辺のお店に食料や必要物資を買い出しに出かけられ、早朝まで夜通しで炊き出しなどで奮闘され、おにぎりや味噌汁の用意、住民の方々への対応でご尽力いただきました。また多数の保護者の方々から来園時の差し入れや援助のお申し出でお力添えをいただきました。翌朝JRと小田急線の回復を受けて藤沢駅までの集団下校を行い、生徒諸君は無事にご家庭へ帰宅できました。

 その後も事態は厳しく、「計画停電」の実施に伴う市民生活の大混乱があり、原発をめぐる情勢からも通常の学校運営は困難となりました。県内私立学校間の情報交換を進め、学園生の安全確保を最優先して年度末予定の大幅な変更を行い、HPやメール配信でご連絡をいたしました。
 新年度に入り、被災者支援の義援金の募集を「チーム湘南学園」で取り組みました。学園全体で防災体制が強化され、備蓄の補充、放射能測定や津波想定の避難訓練を行いました。各学校や全学一斉の避難訓練や近隣との連携も強化されました。周辺自治会の方々との「防災・防犯」をめぐる協力体制や対話が前進しました。夏期や年間を通した節電対策も意識され、数値結果が検証されました。当時の切実な問題意識に比べて風化が指摘できる現状を改めて反省いたします。
 
 そして現在、同じ年度末になりましたが、新型コロナウイルスの感染症が日本と世界に一気に広がり、その拡散防止のためにと全国の諸学校が臨時休校の措置を余儀なくされました。大切な年度末の諸行事が中止や大幅縮小など大きな制約をせまられ、様々な経済活動や社会生活が新たな困難に直面しています。多数の方々のお仕事や所得にも重大な損害が広がっているのです。

 またこの数年、地球規模の気象変動に基づく様々な自然災害が多発して、大勢の人達が犠牲になられました。さらに人類の生命と健康を脅かす新たな感染症リスクが、グローバル社会の進展にもつながる形で急速に拡散する不安を広げているのです。国連を中心に国際社会が掲げた「SDGs」の取り組みが、様々な場面で緊急性を強めていることを再認識しなければなりません。

 私たちの便利な日常生活は決して永久に当たり前でなく、人びとの生活と仕事が網の目のように繋がる中でやっと成立しており、実はとても脆弱な部分を持っていることを理解しなければなりません。いのちと安全を支える近隣や広域のつながりを改めて受けとめ直し、感謝の念を新たにしたいものです。
 同時代に生きる人類は同胞意識を深め、連帯と協力を広げていかねばなりません。日本に暮らす私達は大震災の経験を風化させず、現在の危機ともつなげて心に留めながら暮らしていくべきでしょう。