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第173回 人生相談へのアドバイス

2020年5月27日

 首都圏の1都3県と北海道に継続されていた緊急事態宣言が全面解除され、新型コロナウイルスをめぐる全国の情勢は新たな段階へ移行しました。
 長期の休校期間を経てやっと再開の方向を目指していけますが、県内や首都圏の状況を見るといぜん慎重な判断も求められると思われます。

 湘南学園も、学園生が安心して登校・登園できるよう感染予防の様々な対策を準備し、段階的な登校期間の設定を含むスケジュールを編成しております。幼稚園・小学校・中学高校から再開スケジュールをご連絡していきます。
 
 学校再開後も登下校時間は慎重に設定され、社会全体もリスク対策が優先されて休日の外出などは抑制され、在宅時間の長い傾向はしばらく続くことでしょう。そこで今回も読書をテーマに、今ぜひお薦めしたい図書をご紹介したいと思います。
 
 日本も世界もかつてない閉塞感や不安におおわれ、対人関係や進路選択など様々な悩みが強まっているものと思われます。もちろん個人個人の抱える問題は千差万別ですが、そこには共通する背景や解決の糸口もあるはずです。
 一人で悶々とするより誰かに聞いてもらって助言を受けることが有益になります。若い世代なら友だち、親や家族、教員などが相談先でしょうが、時には第三者に悩みを打ち明けて励ましやヒントを得る場合もあります。それが今回のテーマです。
 
 『鴻上尚史のほがらか人生相談』と『鴻上尚史のもっとほがらか人生相談』(ともに朝日新聞出版刊)という連作を紹介します。2冊目はつい最近に刊行されました。
 この2冊は、NHKBH1の人気番組『COOL JAPAN』の司会者でも有名な劇作家・演出家の鴻上尚史さんの著作です。すでにこの通信の第139回(11月30日)で、同じ著者の『「空気」を読んでも従わない』という優れた新書を紹介しました。
 広く全国から寄せられた人生相談を担当する月刊誌があり、毎回「神回答」と絶賛され、ネットでも連載されて数千万回PVを突破しました。その反響を受けて相次いで書籍化されたのです。
 
 2冊で合わせて50以上の相談事例が載せられています。相談者は高校生以上の若者から中高年の幅広い年代まで広がり、親子関係、夫婦や男女の関係、学校や職場の問題、人生の進路など相談テーマは様々です。
 読み始めると「そうした悩みは世間に広くありそうだ」と思われ、「どんな回答が届けられるかな」と興味津々です。相談内容の事例をあげてみます。

○「明日からやろう」と思いながら勉強に身が入りません。「いまやるスイッチ」はどうしたら入りますか?(17歳)
○学校のグループ内で私は最下位扱い。本当の友達がほしいです(17歳)
○これまで容姿に対する男性の態度・言動にひどく傷つけられてきました(25歳)
○高校時代の友人A子から絶交されました。A子のためにと言ってきたことが恨まれていたのです(28歳)
○人前で話すのが怖いです。あがり症のなおし方を教えて下さい!(31歳)
○4歳の娘が可愛くありません。怒鳴ったり、手をあげたりする前にお知恵を貸して下さい(41歳)
○小学4年~中学2年まで受けた壮絶ないじめが忘れられず、苦しいです(42歳)
○大学生の息子が俳優になりたいと言いだしました。人生を棒に振ってしまったらと心配で、私も妻も反対です(51歳)
 
 鴻上氏は、相談者の抱える問題について、日本の社会に特有な「世間」や「空気」をめぐる視座も交えて分析します。「同調圧力」の根源にある「世間」の重圧も指摘されます。そして過去に振り回されずに将来に希望を託す知恵を示します。
 時には配慮に徹した共感と助言の言葉をつむぎます。時にはきっぱりと厳しく決別や断念をせまります。でも優しさとユーモアに満ちたフォローを忘れません。
 自身の経験やコンプレックスにもふれて語りかける言葉はじんわり心に入り、的確で実行可能なアドバイスに納得するのです。相談内容は深刻なのに、読了感は「ほがらか」なのです。
 
 鴻上氏は22歳で劇団を立ち上げ、多数の俳優や現場スタッフと関わりながら仕事をしてきました。若い男女の悩みを中心に相談を受けることが多く、性格も境遇も異なる相手に寄り添うアドバイスを探りました。演劇といういろんな個性がぶつかる現場で鍛えられて40年。今では全国の人たちを対象に人生相談に向き合う使命を得たのです。

 「悩みを言葉にすることは自分の感情と向き合うこと」、「内面を対象化することは混乱した悩みをクリアにすること」と鴻上氏は述べます。
 そして最後に「自分の頭で出した答えだけが自分を本当の意味で動かすことができる」のであり、「こちらのアドバイスをどう扱うかは相談者の自由である」とします。自分の頭で考え抜いた判断を拠り所に進んでほしいのです。
 
 一読して「自分が接した相手の人には、こんなふうに言葉を選んで関わっていきたい」と学ぶ思いになりました。中高生から幅広い世代の成人までお薦めであり、学園の卒業生諸君にも紹介したいと思われました。

 読者には、自分のことで参考になり、同様の悩みを抱える身の周りの親しい人のことも思い出し、励ましのヒントを届けられると気づくかもしれません。
 面白くて一気に読めるので、ご家族やお友達にもご紹介していただけたらと思います。