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第204回 「ナナメの関係」からの助言

2021年2月10日

 前回の続きになります。人生の長い航路を進む上で、ふだん接点のなかった、或いは少なかった人からも貴重な助言を受けることがあります。
 それは子どもから大人まで共通のことですが、特に悩み事の多い思春期や進路選択の最中にある若者には、「ナナメの関係」からの小さなアドバイスが有益なヒントになることがあります。今回はそうしたテーマにふれたいと思います。
 
 自分にもささやかな体験があります。
 学生時代に同学部で浅い知り合いだった先輩から忠告を受けたことがあります。教職を改めて目指していると話すとその先輩は「山田は真面目過ぎて視野がせまい。読書は好きなようだが漫画も意識的に読んでごらん」として、ある連載コミックを推薦してくれました。その本はすぐ夢中になり、全巻揃える愛読書となって家族でも回し読みしてきました。

 また教員になりクラス運営で、ある女子となかなか関われない悩みがあった時、職場の先輩教員から「もっと男子とじゃれて遊んだらいい。教員はまず同性の生徒との交流が大事だよ。その様子を見て異性の生徒も安心するんだ」との助言を寄せてくれました。中学で対話に苦労したその女子とも高校では普通に話せた体験から生徒も教員も成長できるんだ、ゆっくり進もうと思いました。
 
 子どもをとりまく現代の社会環境には、親族のお兄さんやお姉さんとか、近所のおじさんやおばさんとの接点や交流がごく薄くなってしまった現実があります。マンション生活でご近所でも挨拶すら激減したり、毎日の買い物で寄る個人店の人達との会話の輪も縁遠くなった大人が多いことでしょう。
 しかし子ども達には、親や教員とは違う関心や視点から自分達のことを認め、寄り添い励ましてくれる年上の存在が本来は必要なのです。いろいろな「ナナメの人間関係」の中でこそ子ども達は育っていくものです。

 文部科学省の「子どもを守り育てる体制づくりのための有識者会議まとめ」でも、次のような課題提起がなされています。
 【社会全体で子どもを育て守るためには、親や教師でもない第三者と子どもとの新しい関係=「ナナメの関係」をつくることが大切である。地域社会と協同し、学校内外で子どもが多くの大人と接する機会を増やすことが重要である。】
 
 特に思春期真っ只中にある中高生にとって、「ナナメの関係」はより切実に必要になっていると思われます。
 本気で悩みを話せる親や教員がいないと感じ、家庭と学校を往復する現在の生活に閉塞感が募るばかりで、友達とのスマホを通じた交流も苦痛になれば、出口の見えない状況と感じることでしょう。
 だからこそ同様の通過経験のある「少し年上のお兄さんやお姉さん」との交流機会が切に望まれるのです。大きな悩みが今はなくてもそうした先輩達から有益なアドバイスをもらえる機会があると、対人関係や進路選択で新たな意欲が生まれるものです。
 
 湘南学園では、そうした「ナナメの関係」の出会いの機会を、様々な場面で設けるようにしてきました。
 中高の実践例であげると、中学や高校の研修旅行で全国各地の訪問先で「民泊体験」を重視した行程を積極的に組んできたり、生徒会活動や生徒プロジェクト支援では「地域活性化」や「被災地支援」の第一線で活躍される人びとをお招きしたり、訪問したり、共に取り組む挑戦をしたりしてきました。
 部活動のコーチとして、通常練習や大会、合宿などで後輩部員達の指導や相談相手として関わってくれた卒業生の人達もおおぜいいます。

 本音の対話を引き出す座談やワークショップを通じて全国の若者達を励ましてきたNPO法人の方々から出張授業に来園していただいたり、湘南学園の卒業生諸君にサポーターズとして登録してもらって、現役学園生の学習支援や進学相談で貢献してもらったりしてきました。これは現在も重要な教育企画の1つとして位置づけられています。
 「勉強と部活はこんな風に両立させたよ」「スランプの時はこんな風にもがいてみたんだ」「今からこんな努力なら始められるんじゃない」といったアドバイスは、後輩達にとって本当にリアルな経験談であり、自分なりの捲土重来のきっかけにもなるかもしれません。
 
 人間は自分をとりまく「タテ」「ヨコ」「ナナメ」といった重層的な人間関係を通して、援助されるだけでなく助ける側でも貢献し、教えられ教えることで成長していきます。

 日本の若者が著しく低いと指摘される「自己肯定感」をしっかり体得していくためにも、こうした身近な社会のつながりを温かく豊かにしていくことが重要です。
 どんなに現在の環境や境遇がつらくても「自分の未来は自分で築いていける」という積極的な意欲を育んでいきたいし、湘南学園も建学の精神をまっすぐ受けて、そうした意欲を引き出せる教育を更に充実させていきたいと思います。