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助走から飛翔へ -新たな年に向けて-

2016年12月26日

 師走に入り朝夕の冷え込みが厳しくなるとともに、富士山がくっきりとその姿をみせてくれる季節が到来します。雪を戴く富士を見ると何かいいことがありそうなそんな気持ちになります。それぞれの季節には、それぞれの楽しみがあります。私にとってはこれから続く美しい富士の眺めは、そんな楽しみのひとつです。
 
 12月20日、幼稚園、小学校の終業式がありました。

 幼稚園の終業式は、園児の元気な返事、先生の十二支の話での問いかけに次々と手をあげる園児の反応など、明るく伸びやかな子どもたちの姿にパワーをもらうことができました。

 小学校の終業式では、式の最後に、「短歌、俳句、川柳」、「読書感想文」さらには「スポーツ」に関する各種の大会で賞を得た児童への表彰状の伝達、成果の報告がありました。私が注目したのは、賞を受賞した児童の名前が読み上げられ、当該の児童が立ち上がる度に寄せられる仲間の拍手でした。友だちが賞を得たことを讃え、一緒に喜ぶ温かな雰囲気がどの児童の時にも醸し出されるのです。湘南学園小学校が大切なことを子どもたちに育んでいる証にも思え、私も温かな気持ちになりました。

 幼稚園園長、小学校校長の終業式での言葉の中に、期せずして「あいさつ」の大切さの話がありました。園長、校長の言葉は表現こそ異なりますが、あいさつの大切さがそれぞれの年齢に分かりやすく伝わってくる内容でした。湘南学園の子どもたちはよくあいさつをします。あいさつを大切にする学園の雰囲気、これからも大事にしていきたいと思っています。
 
 今月は、幼稚園における主要行事である「がちゃぺたらんど」が行われました。幼稚園では、造形展を「がちゃぺたらんど」と呼んでいます。「幼稚園だより」には、次のような説明があります。

子ども達一人ひとりが、小さな手を動かして「がちゃがちゃぺたぺた」と作り出す姿、そして友達と一緒に「わいわいがやがや」と楽しくおしゃべりしながらお互いの思い、考えを出し合いイメージを膨らませていく姿などが感じとれるように、造形展のことを『がちゃぺたらんど』という名称で呼んでいます。

 「がちゃぺたらんど」当日の12月4日は快晴無風、温かな日和に恵まれ、保護者の皆様、ご家族の皆様など多くの方にご来場いただきました。丁寧に仕上げられた園児の作品は、豊かな想像力、豊かな感性が感じられるものばかり。見る者を惹きつける個々の作品に加え、年長児が共同で取り組んだ「お店やさん」は、部屋の中に八百屋さんあり、花屋さんあり、肉屋さん、魚屋さんから寿司屋さん等々が細部にまでこだわった見事な空間を形作っていました。園児が鵠沼商店街に出向き、その実体験を踏まえてつくりあげられた「お店やさん」はもとより、「がちゃぺたらんど」そのものが、日頃からの幼稚園での遊びや生活、仲間との交流、それを支える教職員の温かな眼差しと専門職としての指導によって生み出されたものと感じています。何より園児の豊かな可能性、幼児教育の奥深さを改めて感じながら、会場を後にしました。
 
 幼稚園から届いた「幼稚園だより」の中に、初めて「がちゃぺたらんど」をご覧になった保護者の方からの手紙が掲載されていました。

・・・毎日作品が一つずつ出来上がっていく様子、子ども達の喜びや楽しみが目に浮かび「ふふふ」と笑顔になってしまいました。
 「ものづくり日本の原点」無から生み出すパワー、計り知れない想像力と創造性を見せつけられた思いです。
 改めて我が子が、想像力豊かな仲間とそれを支えてくださる先生方に囲まれている素晴らしい環境にいることに感謝の気持ちでいっぱいです。この好環境を毎日もっとかみしめて欲しい!
 クリスマスプレゼントはおもちゃセットと思っていましたが、購入はやめます。
 冬休み自宅で一緒に「無」から工夫して作ってみようと思います。絵や工作好きの気持ちを大切に見守っていこうと思いました。

 このご感想を読み、『神去なあなあ夜話』(三浦しをん)のある場面を思い出しました。

 先月、PTA読書サークル『くわの実』の読書会に初めて参加しました。その会で取り上げられた本は、三重県の山奥で林業に携わる人々を描いた『神去なあなあ夜話』でした。

 この作品は、『神去なあなあ日常』の続編として書かれた本で、私も、いずれの本も楽しくそして興味深く読みました。地道な作業に加え、本当に長い時間を必要とする林業。先祖が植えた木を大切に守り育て、自分たちが植えた木を後世に託す。村人の生活と共に林業の厳しさや深さを感じた小説でした。

 ここでは話の内容は省略しますが、いずれの作品にも「山太」という小学生が登場します。この村の林業をまとめている中村林業株式会社代表の一人息子です。山太はクリスマスに「ベジタブル戦隊の、ミラクルギャラクティカフォーム・ベジタブルロボ」というロボットをサンタさんにお願いします。すると、サンタさんから山太に手紙が届きました。

 「二十四日は、わたしはせかいじゅうの子どもたちにプレゼントをとどけなければなりません。・・・だから山太くんはおとうさんからプレゼントをもらってください・・・」という内容の手紙を受け取った山太は、サンタさんからの手紙ということで大喜びします。そして、中村家の当主で信望の厚い山太の父親「清一さん」こと中村清一は、塾慮の末、高価なロボットを購入せずに木でロボットそっくりのものをつくり枕元に置きました。

 この物語の主人公、横浜から高校卒業と同時に自らの意志に反し、三重の山奥で林業に取り組むようになった平野勇気。この物語の主人公で語り手でもある平野勇気は、山太が木製ロボットを手にし大喜びする場面を見て、以下のように述べます。

清一さんの作ったというロボは、五千円以上する売り物のロボとちがって、あきらかにしょぼかったんだ。だいいち、超合金じゃなく木製だし。木が欲しかったら、神去村では眠ってても入手できる。
いや、金額は問題じゃない。それは俺にもわかる。清一さん作のロボは、頭部が赤、胴体が緑、右腕がオレンジ、左腕が紫、両脚が茶色と、ペンキできれいに塗り分けられていた(山太によると、ベジタブル戦隊のカラーに忠実なんだそうだ)。すべての角にやすりがかけてあって、手ざわりもなめらかだ。しかも、関節部はネジで留めてあるため、可動するようになっている。

(三浦しをん『神去なあなあ夜話』)

 父の愛情と子どもがそれを無邪気に喜ぶ姿が微笑ましく描かれている場面です。

 私には、『神去なあなあ夜話』のこの場面と上記の保護者の方のお手紙が重なってしまいました。子どもたちが待ち望むクリスマス。いろいろなプレゼントがあっていいのかもしれません。
 
 中高は、学習に部活動にそして来月の合唱コンクール(中1から高2が参加)に向けて生徒がそれぞれ一所懸命に取り組んでいます。高3生にとっては、受験に向けての追い込みの時期。既に終了した推薦入試,AO入試等の結果も届き始め、AO入試では、目標を高くもち難関とされる大学に合格したという報告が続いて寄せられています。年明けのセンター試験や一般入試に向けての健闘を大いに期待しているところです。
 
 中高に関し、先日、ロータリークラブの交換留学生としてフランスから来日し、8月から湘南学園で学んでいるマリーヌさんが学園長室を訪ねてくれました。現在高校2年に在籍しているマリーヌさんは、意欲的に学び、充実した生活を送っている様子でした。日本語の指導にも当たっている英語科の荒木教諭に同席していただき、話をお聞きしました。

 たとえば、日本の高校とフランスの高校の違いについては、学習に特化したフランスの高校に比べ、日本の高校は、学園祭のようなフェスティバルがあり、また、クラス単位で取り組む合唱コンクールのような文化的な行事もあり、学校生活をより楽しむことができるということでした。

 学習に関しては、フランスでは、授業中に意見を述べたり、議論したりということが中心で、時にはいわゆるディベート大会のような形で2グループに分かれ勝敗を決めたりすることもあるという話があり、改めて欧米の教育内容を確認する思いでした。

 カミュの『異邦人』を最近読み、大いに心を動かされたというマリーヌさんは、今読んでいる本ということで『Vivere』というタイトルの心理学に関する本を見せてくれました。旺盛な向学心をもち、音楽や演劇を始め芸術に深い関心をもつというマリーヌさんは、書道に特に関心をもっている様子でした。

 荒木教諭の話によれば、日本語の力も急速に上達しているということでした。私が驚かされたのは、マリーヌさんの漢字の力です。「憂鬱」「蝋燭」という漢字を何も見ないで正確に書くことができるのです。荒木教諭にその話は伺っていたのですが、目の前で書くマリーヌさんを見て、ただただ感嘆のみでした。漢字が好きだということでしたが、日本人でも「憂鬱」や「蝋燭」を何も見ずに書くことは難しいのではないでしょうか。

 それ以外にも、同じクラスの生徒が定期試験の結果に一喜一憂することが不思議だという話、勉強の目的はもっと先にあると思うという感想なども含め、貴重な話を伺うことができた時間でした。
 
 本学園でも海外交流を盛んに行なっており、海外研修や留学等、外国に行き多くを学び成長していく生徒がたくさんいます。一方、本学園は、ここ三年、毎年ロータリークラブの交換留学生を一年間受け入れています。そうした留学生の方から本学園の生徒も多くを学んでいます。

 マリーヌさんの話をお聞きする中で、留学生を受け入れることのもつ意義を考えていました。国際標準について考える、視野を拡大する、異文化理解を深める、あるいは日本の教育の良さと改善点を考える等々、留学生の方をとおして学ぶあるいは考えることは多々あるような気がします。

 来年7月まで滞在されるマリーヌさん。マリーヌさんも本学園の生徒も共に成長する、そのようなマリーヌさんの留学生活、本学園の留学生受け入れになることを大いに期待しています。
  
 湘南学園では、園児・児童・生徒による文化行事だけでなく、芸術鑑賞や講演会等も数多く開催されています。そうした行事にはPTAから多くのご支援をいただいています。12月19日には、小学校ホールを会場に、PTA教育文化事業として「かかし座」による「影絵劇」公演が催されました。午前中は小1から小3対象の「長靴をはいたねこ」、午後は小4から小6を対象にした「星の王子様」の公演。私は午前中の「長靴をはいたねこ」を鑑賞しました。

 最初に「目と耳と心」を働かせて見てほしいとの話があり、公演に入る前に、両手を使った「とり」や「カニ」の表現を教わりました。小学校低学年の児童は反応がよく、劇団員の方々の指導、声掛けに積極的に応えていました。

 「影絵」には、独特の温かさがあります。「影絵」、そして時に劇団員の方がそのまま演じる約一時間の公演。私も舞台空間に引き込まれながら楽しく豊かな時間をもたせていただきました。子どもたちも熱心に見入りながら、要所での反応もあり、十分に楽しんだ様子が窺えました。

 同じ19日、中高生対象の講演会は、ゴルゴ松本氏を講師にお招きしての「命の授業」。こちらもPTA教育文化事業として開催されたものです。予定の1時間半を大幅に上回るゴルゴ松本氏の熱のこもったお話。「つなぎつながれていく命」、「自らの人生の主人公は自分」、「思いを言葉にすること、行動に移すことの大切さ」「言葉の大切さ、本を読むことの大切さ」、「好きなことに打ち込め」等々、いただいた数々の貴重なメッセージから、私自身も学ばせていただき、中高生の心にもしっかりと届いたと思っています。

 湘南学園は、多くの皆様に支えられて教育活動を行っています。PTAのご理解、ご支援は学校にあってとても重要なものがあります。深いご理解と熱心なご支援を賜わっている湘南学園PTA、ありがたく心強い存在と感謝しています。
 
 冒頭の小学校終業式に戻ります。

 六年生の執行委員が堂々と代表としての言葉を述べてくれました。

 二学期を振り返り、「二学期の生活をとおして学びを深めることができ成長することができた」とした上で、特に「たいいく表現まつり」と「音楽会」という二つの行事を取り上げてくれました。

 「たいいく表現まつり」ではクラスと学年の絆を深め、「音楽会」では、学年合唱にクラスを越えて取り組み達成感を味わったということが話されました。最後に、「三学期は六年生はラストスパート。五年生から一年生までは次の学年に進む準備にしっかりと取り組みましょう」と締めくくってくれました。
 
 湘南学園小学校だけでなく、幼稚園も、中学高校も、年明けからラストスパート、そして次の学年に進む準備が始まります。楽しい思い出をつくり、体調管理にも留意しつつ、ラストスパートや次の学年に進む準備に弾みがつくような冬休みを過ごしてほしいと願っています。