本と出会う3-ひとりごと-

2021年9月28日

 本にまつわる話です。『旅をする木』(星野道夫/著)という本があります。ある時、この文庫本を手にしたどこかの誰かが『旅をする木』の「木」の字にボールペンで一画書き加え、『旅をする本』というタイトルに変えてしまいました。さらに最終ページに自身の名前を記しました。その後『旅をする本』はその名のごとく、旅人から旅人へ手渡されたり、海外の古本屋に置かれ、人から人へとまさに旅をしました。最終ページに記される名前も二人三人と増えていったといいます。浪漫ある話です。

 僕にもちょっとした本にまつわる話があります。ある年、ある事があり、ものすごく落ち込んだ時期がありました。無気力に過ごす日々。元気になるきっかけが欲しくて、近所の図書館で一冊の本を手にしました。その本を本棚から引き出した理由は、「旅」の一文字が目に入ったからです。それが『旅屋おかえり』(原田マハ/著)でした。読み進めていくうちに、心が癒やされていくのが自分でも分かりました。その後、原田マハさんの著書をむさぼるように読みました。昨年度の校長日記『本と出会う』に書いた、まさに “読みどき” だったのだと思います。
 その夏、原田マハさんの文庫本数冊をザックに入れ、ローカル線に飛び乗り北海道へ一人旅に出ました。弟子屈という町で小さな宿に入りました。宿泊客は僕だけでした。その日の晩、ダイニングのソファーに座り本棚に目を向けると、原田マハさんの本がたくさん並んでいました。嬉しくなり、まだ読んでいない本を手に取り、はらりとページをめくりました。すると、原田マハさんのサインがしてあったのです。次の本にも、その次の本にも直筆のサインがあったので、宿のご主人に尋ねました。「原田マハさんのファンですか?」ご主人はにこりと答えてくれました。「実は・・・ここは原田マハさんが年に一度、一人でいらっしゃる宿なんです。」その偶然のつながりに驚きました。
 担任時代にこの話を学級通信に載せたら、今は6年生のFくんが『旅屋おかえり』を読んでくれました。Fくんのおかげで、この本にまつわる話の続きができました。