残したいもの 残すべきもの

2022年3月8日

 3月11日が近くなると、テレビやニュースなどでは東日本大震災の話題が増えます。あの日のことは、風化させてはならないことだと改めて思い心に刻んでいます。
 数年前に東日本大震災の被災地である陸前高田市をを訪れたときに「奇跡の一本松」を見ました。「奇跡の一本松」とは、約7万本あったといわれる高田松原のほとんどが津波によって流されてしまった中で、唯一耐え生き残った松のことです。しかし、海水により深刻なダメージを受け、後に枯死が確認されてしまいました。けれども、震災直後から復興のシンボルとして親しまれてきた一本松を、後世に受け継いでいくためにモニュメントとして保存することになったのです。ですから、僕が見た「奇跡の一本松」は本物を模したモニュメントです。しかし、現地で周囲の状況を合わせて見ると、よく一本だけ立ち尽くすことができたと驚くばかりです。


 震災直後に「奇跡の一本松」を知ったとき、自分も地元の鎌倉で何か「奇跡の一本松」のように残せるものはないかと考えました。自分にとって残すべきもの・・・もしかしたら近いうちに朽ちて無くなってしまうかも知れないもの。ふと想い出したのが、鎌倉山から七里ガ浜や鎌倉高校に広がる「広町の森」に中に立っている樹齢約200年とも言われている大山桜でした。それは、やんちゃな二人の息子が幼いの頃に、よじ登って遊んでもらった巨木です。広くは知られていませんが、少しばかり息子たちを成長させてくれた感謝の気持ちから、この大山桜を描き残すことにしました。それが自分なりに残したいものを残すための方法でした。毎年春になると、大山桜が満開を迎える時期に数日森へ入り、桜の下でキャンバスに向き合っています。震災の翌年からなので、もう10枚になりました。


 湘南学園の周辺は地名に「松」が付くほど、たくさんの松の木があります。そして、湘南学園の校章は松の葉をデザインしたものです。学園歌にも松が歌われています。2年前に卒業したTくんは卒業生代表の言葉の中で、湘南学園の校章の松は生命力の強さを表しているといい、「いろいろな物事にも恐れず、勇敢に立ち向かっていきます。」という言葉を残してくれました。創立から88年、松の緑に囲まれた湘南学園小学校にはたくさんの子どもたちの足跡が残っています。