第701回 夫婦の絆・家族の絆を見つめる(2)

2013年6月20日

 昨日のつづきです。田中寅夫さん・フサ子さん夫婦は、還暦を過ぎてまた山に戻り、電気も電話も水道も通らない暮らしを再開しました。

 

 “最期まで山で、夫婦で、自分達らしく生きていきたい”という強い思いが根底にあります。どんなに不便な生活でも張り合いがあり、収穫の喜びや大自然との語らいがあるのです。
 山仕事に行った夫を麓から呼ぶ妻の大きな声は、驚くほど高く澄み切っていました。夫の好きな松茸を3時間も山中を探して果たせず、妻がお詫びに持ち帰った山野花をきれいだねと夫が慰める姿。年々大変になる農作業を笑顔や会話で楽しく進める姿。年輪を刻んだ夫婦愛の様子に心をうたれました。

 

 夫婦には3人の娘がいます。始めは老いた両親の山暮らしに反対だったけど、一から家族の歴史を刻んだ想い出いっぱい・ふるさとの山で最期をかざりたいとの両親の願いに、いつしか共感を深めていきます。“山に生きて欲しい”“山で看取りたい”と考えるようになるのです。

 そして三女の恵子さん夫婦が決断します。関西で続けていた寿司屋のお店をたたんで転職し、両親の近くに引っ越すのです。三女の夫も実の親に果たせなかった親孝行をと献身的に支えます。80歳代を過ぎた両親は、冬の厳しさにも直撃されてしだいに病も重なり、入退院を繰り返すようになります。そうすると退院後の笑顔を祈って、入院の合い間に畑を整えたりしてあげます。

 

 ガンになっても山仕事に執念をもやした寅夫さんは、90代まで長寿を全うしました。フサ子さんはどこへ行っても夫はどこ?と尋ね続け、山では亡き夫を大きな声で呼び続けます。その若く澄み切った声の清らかさが胸にせまります。
 母が動けなくなってからの三女恵子さんの寄り添いも感動的です。母に昔の楽しい想い出が蘇るようにと食事を介助し、日本の歌や詩を聞かせます。
 ゆったりとしたカメラワークにも頭が下がります。17年間にわたる長期取材の“最終章”に付き添う使命感が伝わってきます。フサ子さんも90代まで長寿を全うできたのは幸いなことでした。

 

 一家の姿を通して、老いること、生きること、夫婦の絆と家族の絆について、深く考えさせられました。筆者の妻も、90歳を間近にする実の父親を支えてきた想いから涙ながらに観ていました。娘も休日に観ると言ってくれ、息子にも勧めようと思います。
 在校生や小学生の皆さんにも、可能ならぜひ観て欲しいと願う番組でした。
 再放送があります。6月23日(日)にBS日テレの午前11時からです。余裕があればぜひ視聴や録画をして頂いて、お子様にも観て頂けたら、何か会話のきっかけになったらとの願いをもちました。

※ 第688~689回の通信で紹介した、NHKスペシャル『東日本大震災“応援職員”被災地を走る~岩手県大槌町』の再放送が、6月22日(土)深夜~23日(日)早朝の、午前1時25分から放映されることを知りました。合わせてご紹介いたします。