第51回 高校生は試験最終日、中学生は「道徳教育の時間」

2010年6月11日

高校生は、前期中間試験の最終日です。中学生は昨日に試験が終わって本日は「道徳教育の時間」の扱いで、今回は映画『青い鳥』を鑑賞しました。そのあらすじと、なぜこの映画を選んだのかについてお伝えしたいと思います。

この映画の舞台は、ある中学校の2年生の教室とその周辺です。
いじめを苦にしてある生徒が自殺未遂事件を引き起こしました。その生徒は転校します。いじめていた生徒達は反省を表明し、学校はそれで収めて平穏が戻っ たことを強調しています。ところが休職した担任の代替で来た臨時教員の村内先生が、全校を揺さぶる提起をします。クラスで「忘れるなんてひきょうだ」と言 い放ち、転校した生徒の机と椅子を教室に戻させ、毎日無人の机に「N君、おはよう」と挨拶を始めるのです。事件を忘れたい生徒達には嫌がらせ、罰としか思 えない言動です。学校も生徒達が動揺すると先生を非難しますが彼は引きません。村内先生には吃音がありますがその分「本気の言葉」で生徒達と向き合うのです。強い思いをのせた重みのある言葉の迫力に打たれます。
学校や教室には標語が掲げられ、投書箱も設けられて、正常化が強調されています。しかしまだクラスや校内には嫌がらせや隙間風があり、孤立する生徒がい ます。村内先生は問いかけます。解決済みとされているが、一人ひとりが人間としてこの事件と本気で向き合ったのかと。教員達には、体裁ばかり整えて生徒達 の心に本当の問いかけやメッセージを届けていないのではないかと。

この映画の原作は、人気作家・重松清の連作短編集です。そして主演の村内先生役は、人気俳優の阿部寛が演じています。映画の冒頭で数分間彼の顔は出ずに カメラが捉えるのは手元や足や背中ばかりです。最初から緊迫感に満ちています。最後は元の担任が戻り、村内先生はこの学校を去ります。
端正な姿で朴訥で真摯な演技には、深い存在感がありました。教員が生徒に本気で関わる迫力がここにあります。彼も過去には重い傷の体験を持つことが示唆されます。大人のご都合主義が射抜かれ、人生で大切なものは何かを静かに実直に伝えるのです。
一度だけいじめに荷担したことに苦しむ繊細な少年役には本郷奏多が挑戦し、好演しています。クラスの生徒達の封印された思いがしだいに浮き彫りになり、 気づき成長していく様子が感動的です。どこかデフォルメされた教育ものや教師ドラマと異なる、リアリティに溢れた105分間釘付けの作品です。

この映画は、職場の教員の間で話題になり、中学生みんなにぜひ観て欲しいねと話し合い、関係者の方々へのご了解を得て、アリーナの大きな画面で上映した 次第です。図書室でも何本かこのDVDを購入しました。高校生の皆さんにも機会をつくってぜひ一度観て欲しいと思います。バリアフリーに配慮した視聴設定 も丹念に制作された作品です。我々にとっては「真の教育的指導とは何か」、「生徒達の未来の糧になるような指導とは何か」を考えさせられる、問題提起に満 ちた作品です。
中学生諸君には、日頃の人間関係や自分の振るまい、周りの人達の気持ちについて改めて考えてみる良い機会になればと願いました。上映後に教室で感想文を書いてもらいました。どう受けとめ考えてくれたのか注目しています。