第1003回 21世紀の「未来」を考察する本 ②

2014年11月27日

昨日の続きです。今年の春に刊行された岩波ジュニア新書の1冊を採り上げ、注目すべき推薦図書として紹介いたします。

 

『21世紀はどんな世界になるのか』(眞 淳平著)で、冒頭の「かなり確実な未来」としてまず取り上げられるのは、世界人口の将来像です。今世紀後半のどこかで100億人前後かそれ以下でピークを迎えると指摘されます。

実は相当に正確な予測が立てやすい分野であるそうです。世界全体としては出生率が急速に減りつつあることが、世界各地の地域別の動向には格差があることにも注意しながら、総体として人類史的スケールでまとめて論じられます。

 

次に宇宙探査の進展について述べられます。アポロ11号の月面到達後、無人探査機による惑星探査が主となって太陽系の外にまで抜け出した軌跡、火星を中心とする太陽系内の有人探査や、民間も加わる人類の宇宙への“入植”の可能性も説明されます。観光としての宇宙旅行が今世紀中に定着し始めると、国境等に隔てられた人類の同胞意識が深まり、“地球外生命”の発見を機に人類としての協力が促されるかもしれないと指摘されます。

この分野は正直、知識も認識もごく弱い分野ですので、読んでいて驚くことばかりでした。21世紀が「宇宙への入植が開始された世紀」として記憶されることになるだろうとの指摘は驚異でした。

 

第2章から「可能性の高い未来」へ移ります。まず国家と国際情勢の変容が主題になります。グローバル時代の進展やEUの挑戦、国連の努力などが述べられます。主権国家の成立に関わる世界史が概説され、“国民”が成立して強化された経緯や、様々な国際機関やNGOなどが役割を高めてきた推移が確認されます。それでも国家が持つ巨大な能力と機能は維持され、世界政府の登場などは困難である理由が詳述されます。

そして国際社会の中軸となる国家間の競合関係が予測されます。アメリカと中国の両国の分析に精力が注がれます。米・中それぞれの強さと弱さを、対比的に各分野にまたがってじっくりと解析してある部分は、特に熟読して欲しいものです。日本の将来に直接影響することばかりです。具体的なコメントは読んでのお楽しみとしましょう。
その後、インドやブラジルなど今後台頭する経済大国が注目され、EUやロシアの要点が語られ、疾風怒濤のイスラム圏・イスラム諸国の底流に持つべき視点が述べられます。

 

第3章では、科学技術の加速的な発展が扱われます。情報やアイデアがグローバルに飛び交い、集合知がインターネットなどで共有され、「変化が常態となる」時代に突入していることが留意されます。

まずシェールガスの台頭に注目し、コジェネや太陽光発電などで新技術が続々登場し、原子力発電が全体では先細りする動向が述べられます。

スマートメーター・スマートシティ・スマートハウスなどが人びとの暮らしを良くし、地球温暖化の影響からEU等の主導にそって再生可能エネルギーの割合が高まると予測されます。「核融合発電」の開発・研究の話はこの本で初めて概要を知りました。

近未来のクルマ社会の変容も述べられます。「自動走行車」や「燃料電池車」の開発はすでに相当に進行しています。「空を飛ぶクルマ」の功罪すらいずれ本格的な検討事項になりそうであり、ドラえもんの先見性に将来の子ども達は気づくことになりそうともいえるのです。

通信ネットワークで結ばれる世界の今後についても、驚くべき予想が論じられます。携帯電話はすでに世界の総人口に匹敵すべき使用台数に至りました。インターネットは発展途上国にも急速に普及中で、いずれ人類的なレベルで日常のツールとなるでしょう。

「電子ホログラフィ」が従来のテレビの地位を引き継ぐ可能性があり、外国語を瞬時に翻訳する「多言語翻訳」の技術も急速に発展中との説明に釘付けとなりました。異なる言語どうしの人びとの会話までがスマホ1つで革命的に便利になることが予想されます。

既存のマスメディアが、インターネットとの共存を図ってどう変容していくのか、新聞と書籍の未来について言及した部分も興味深いものでした。仮想通貨の出現に関するところも、「ビットコイン」が話題になった中で注目され、国家が握ってきた通貨発行という権限の未来を考える材料となります。

 

まだまだ重要なテーマが続きますが、明日のつづきで紹介いたします。