第1218回 冬に備える樹木の営み ①

2015年12月1日

今日から12月です。わりと温暖な湘南地方では、この時期も紅葉・黄葉を楽しめるのが嬉しいことです。冬を前にして、どこにも“逃げられない”樹木について思いをめぐらすことがあります。今回は、「樹木の生命力」について、取り上げてみたいと思います。

 

樹木は、春夏秋冬を通してそれぞれの位置に立ち続けます。毎年生まれ変わる草や花と違って年を越す生命力を持ちます。幹や枝を延ばしながら、根や葉を通して大地と太陽や雨の恵みから養分を得て、長く生き続けるのです。

特に厳しい冬の寒さをのりこえる、樹木の知恵とパワーには改めて注目すべきではないでしょうか。NHK番組「視点・論点」の『樹木の冬支度』(2014年10月2日放送)から学びの深い内容を紹介させて頂きます。和田博幸先生(公益財団法人・日本花の会主任研究員)の解説です。

 

樹木の冬支度は秋からもう本格的に進められます。紅葉は、実は落葉広葉樹が冬を迎える前の冬支度だそうです。紅葉は秋に気温が早く下がる地域から始まり、北海道の大雪山系で9月上中旬に始まり、都内の高尾山の見頃が平年だと11月中旬だそうです。紅葉前線は、約2か月半かけて温暖な地域へと日本列島を南下していきます。

多くの落葉樹は、最低気温や平均気温があるラインを下回ると紅葉へのスイッチが入るそうです。春以後に樹木は、太陽の光を浴びて葉の中の葉緑体で光合成を進めて糖類をつくります。それらは葉から小枝~幹~根へと移動、蓄積され、それぞれの部位を伸ばしたり太らせたりします。

秋が深まり、気温が低下して光合成量が落ちると、光合成でつくられる糖類のエネルギーと夜間に呼吸で失うエネルギー、根で吸い上げる水と葉から蒸発する水の収支でマイナスを生じるようになり、樹木は葉を残しておく必要がなくなります。

そうすると小枝と葉の付根部分に離層と呼ばれるコルク層の仕切が作られます。葉と枝との間で水や養分の流れを絶つのです。完成するまでの間、葉で作られた糖類は搾り取るように枝の方へ吸収されます。やがて作られた糖類は離層に阻まれて枝に取り込まれず、葉の細胞内に貯められます。この糖類からアントシアンという赤い色素が作られて葉は赤みを帯び始め、やがて光合成をしなくなった葉緑体が分解し、葉は鮮やかな赤に変わります。

アントシアンはポリフェノールの一種で強烈な紫外線を吸収する機能もあり、太陽から注がれる紫外線から細胞内の器官を守ります。光合成能の衰えた葉を赤くしてまで、紅葉の遅れた葉に光合成を続けさせる必要があることが分析されています。(明日へつづく)