第1241回 「大和言葉」の豊かな語感

2016年1月13日

よく言葉を選んで使うことは大切なことです。日本語の持つ美しさや奥深さに気づき直す機会が時々ありますが、今回はそのテーマでとても興味をひいた新聞記事を紹介したいと思います。

「美しいと思う大和言葉」という読者アンケートにもとづく記事です(朝日2015年12月5日be土曜特集から)。その内容からの引用を中心にさせて頂きます。

 

人間関係や感情の動きを表現する多数の「大和言葉」に対する、2千名近い人達による回答結果です。全体の第1位は「思いをはせる」で、千票を越えました。漢語なら「想像する」が近い言葉でしょう。「はせる」とは馬などを走らせることで、遠く離れた相手に思いを何とか届けたいという切なさがにじみます。

第2位~第10位を挙げると、「おかげさま」「ときめく」「慈しみ」「心尽くし」「たたずまい」「ひたむき」「おすそ分け」「心を寄せる」「つつがなく」となっていました。

なるほど、どれも響きの美しさや独特の語感に惹かれる日本語です。日本語は、古今東西の外来文化を巧みに融合してきました。中国から入った漢語や、欧米など海外由来のカタカナ外来語も無数にあります。大和言葉は和語とも呼ばれ、文字が出来る前から形成されました。

 

漢語が明確な論理性に優れるのに対して、大和言葉は感情をふんわりと包みこみ、聞き手の想像力にも働きかけます。例えば「ふるさと」の語の暖かさは格別です。「妥協する」よりも「折り合う」とすれば、歩み寄る互いの気持ちが示唆されるでしょう。相手への心づかいに満ちた奥ゆかしさが和語の特徴の1つなのです。

一方で、ビジネス文書やメールも含む実務的な文書には、意味が明解な漢語や英語の方がふさわしいことが指摘されます。でも大和言葉に関心を持っておくと、「言葉の引き出し」が増えていくことが期待されます。仕事の世界でも、私生活や親しい人間関係でも、相手の気持ちに配慮した言葉を大事にしたいものです。

高校生や中学生の皆さんにも、様々な出会いや体験を通じてこうした語彙を広げ、豊かな日本語を使えるように心がけていってもらいたいと思います。