第541回 「就活」へ向けて有益な助言を得る本

2012年10月16日

「読書の秋」です。在校生の諸君が将来の人生において自分を輝かせられる部署をつかみ、元気で働いていけることを願って、今回は「就活」をテーマにした好著を紹介したいと思います。

中沢孝夫著『就活のまえに~良い仕事、良い職場とは~』(ちくまプリマー新書)という本です。本の裏表紙にはこう書かれています。

世の中には無数の仕事と職場がある。その中から何を選ぶのか。どこが自分には向いているのか。就職情報誌や企業のホームページに惑わされずに、働くことの意味を考える、就活一歩前の道案内。

中沢氏は、高校卒業後まず郵便局に勤め、組合本部勤務を経て立教大法学部を卒業し、その後二つの大学で十年以上、就職指導に携わってきた方です。そして学生達が希望を持って社会に旅立っていけるように、船出前の学生生活を充実させるようにするため、どんな助言をすべきかを深めてこられた方です。

この本には、さまざまな社会人の事例が記されています。大企業や中小企業の職場をたくさん回り、長期に働いている人達の、日々の仕事の中身と働いている時の気持ちなどを聴き取り、記録してきたものが土台にあります。働くことの大変さとそれを克服することで得られる達成感に着目されています。
「転職」は実は普通にあること、それでもいつかは腰をすえて働ける職場を得ることの大切さが示唆されます。「決まった仕事」の中から「新しい仕事」を考え出す努力が注目されます。「企業が求める人間像」をスケッチしていくと、大切なのは「こいつと一緒に働きたい」と思われる人物だと、そこにおおむね合意があったとの指摘は印象的でした。
「良い仕事」「良い職場」に求められる条件や必要な努力についての指摘に共感しました。国際的な仕事を担う上でも問われるのは「潜在力」や「日々考える能力」であり、「自己実現」とはある共同体に参加し多数のメンバーと価値観を共有する中でこそ成立するものだとの指摘にも共感しました。「仕事をする上で大切なのは全体を理解することだ」との提起も含蓄あるものでした。

就活に臨む大学生達には、「説明できる自分があるのか」と問いかけ、特に「良い本を読み、自分を充実させる」ことの重要性を説かれます。中沢氏は新聞や雑誌など長年にわたり数多くの書評を担当されたので、学生達に読んで欲しい書籍の例も豊富に紹介されています。
就活をめぐる昨今の厳しい情勢についての見解も記されており、この部分には少し異論も抱きましたが、過剰で厚化粧された「会社情報」に翻弄されずに「好きな仕事をどう見つけていくか」考えようと、多面的に助言を重ねる記述から氏の思いやりが伝わってきます。どんな職場に進んでも「問われるのは相手との信頼関係の構築である」との助言は心にきざみたいものです。

大学生が最適ですが、高校生が読んでも参考になる視点が豊かな本だと思われました。保護者の方々にも、これからの時代を生き働いていくお子様への助言、励ましの視点を深められる本としてお勧めしたいと思います。