第491回 「内向的な人」が秘めている力とは(2)

2012年6月27日

 スーザン・ケイン女史の話は、自分が9歳の時のエピソードから始まりました。家族そろって本が大好きだった彼女は、サマーキャンプにも本をいっぱい詰め込んで参加しました。しかし皆でチアや集団行動するその場の雰囲気に馴染めず、本を取り出すと「何でそう醒めているの」と咎められ、リーダーからは「めいっぱい活動的になるのよ」と諭されました。“私に読まれたい本を見捨てている”との罪悪感さえ覚えたそうです。
 “そんな思い出なら他に50ぐらいある”と彼女は言います。学校の教室ではグループワークが主流で、教師はいつも外交的で行動力のある生徒を評価していました。単独行動を好む子ははぐれ者や問題児扱いされることもありました。職場でも開放的なオフィスが一般的で、外向的なコミュニケーション力が優遇されました。そうした中で、彼女は「自分だって大胆で積極的になれる」と証明したくて、にぎやかなバーによく出かけ、無理して金融街の弁護士にまでなったそうです。

 「イントロバート」(内向的な人のこと)の一人として、スーザン女史はその潜在的な能力や、社会に認知されるべき可能性を説きます。この人たちは、社会に根ざした偏向によって自己肯定感を持ちにくく、不利を被っているが、それはまず同僚やコミュニティにとっても損失であると言います。それは「内気」ということではなく、様々な社会からの刺激に対してどう反応するかの傾向であり、イントロバートはもっと静かで落ち着いた環境の中で、生き生きと能力を、時には創造性や指導性を発揮できる、と説くのです。

 その背景としてスーザン女史は西洋社会、特にアメリカの文化の歴史に言及します。「考える人」よりも「行動する人」が好まれ、都市生活が主流になると「知らない人たちの集団の中で自分の能力を示す、自分をアピールする」必要が高まりました。優れたセールスマンがロールモデルとなり、創造性や生産性はもっぱら社交的な場から生まれるとの風潮が強まったと説明します。
 しかし人生には孤独も必要なことが説かれます。人類の長い歴史をたどれば、世界の大宗教を拓いた、モーゼ、仏陀、イエス、ムハンマドらは、探求者でひとり荒野をさすらい、その中で啓示を得てコミュニティへと持ち帰りました。
 エレノア・ルーズベルト、ローザ・パークス、ガンジーらは、自分を無口で静かな話し方をする、むしろ内気な人間だと言い、表に立つことを嫌ったのに世の注目を浴び、重要な変革を指導しました。ダーウィンは、長い時間森の中をひとりで散歩し、パーティーの招待はきっぱり断っていたそうです。
 彼女はそうした事例をいろいろ紹介し、内向的な人は内省力に優れる分、注意深く、大きなリスクを避けるだけでなく、周囲がアイデアを出し活躍するのを促しやすいとの研究も示します。

 ・・・・・・ではここまでの内容を踏まえて、彼女が結論としてどんな提起をするのか、また私たちはどんな認識を一歩先へ進めるべきなのかについて、最後にまとめてみたいと思います。(明日に続く)