第1351回 根岸英一博士、湘南学園生との「対話の集い」

2017年10月20日

~学園生はノーベル賞受賞者から何を学んだのか~

 文化の秋、そしてノーベル週間にちなんで、ノーベル化学賞を受賞された根岸英一博士を湘南学園にお招きしての「対話の集い」が開催されました。
 
 根岸英一博士は、1935(昭和10)年、中国東北部長春(旧満州新京)に生まれ、父親の仕事の関係でその後朝鮮での生活を送り、戦後の1947(昭和22)年にいわゆる「引き上げ体験」を経て、神奈川県高座郡大和町(現大和市)へ転入。1953(昭和28)年神奈川県立湘南高校を卒業、東大工学部応用化学科に。卒業後は帝人に入社し、その後ペンシルバニア大学に留学、博士号を取得し、パデュー大学、シラキュース大学で教鞭をとられ、その後パデュー大学特別教授のポストに就かれました。

 2010年「パラジウム触媒によるクロスカップリング反応の開発」(「根岸カップリング」)の業績によりノーベル化学賞受賞に輝き、現在パデュー大学で後進の教育・研究指導に当たられるなど、その活動領域は世界に及んでいます。
  
 今回はいわゆる「対話の集い」形式とし、コーディネータ・司会には、湘南学園同窓会第1期生の鈴木健治さん(ジャーナリスト、アメリカ研究者)と同じく同窓会の前川力さん(博報堂OB)のベテランにお願いしました。
 
 なかでも印象に残った点を記すことにします。
 根岸先生が、一つひとつの取り組み、勉学、食事、コーラス、スキーなどにそれぞれ「集中力」「転換力」を発揮していたこと、大学後半時に病を得てその治療時間のまとまった時間を、将来のビジョンを練る上でしっかり生かしたこと、ご自身の発展的研究に結びつくベースとなる基礎科学を大事にし築いたこと、先行研究をないがしろにせず、その学びの上に新たな自身の可能性の高い研究テーマを見つけ出したこと、日常の研究生活のなかで「変化」「転換」に絶えず注目し、いつも化学、科学全体を視野においていたこと、そして意識して学びに向かう姿勢を培うこと、研究者グループの「適正な刺激のし合い」、「競争」を大事にすることなど、生徒の皆さんも示唆に富んだ多くのお話をお聞きすることができたのではないでしょうか。
 
 最後に、高2理系クラスのWさんから専門的な質問。「根岸先生や他の学者など、多くの方たちは長年かけてC-Cカップリングを見つけましたが、植物は数千年も前からこれを日常的に行ってきました。これは光合成のことですが、教授はCとCを結合させるための触媒としてパラジウムを見つける時に植物からヒントを得たりしたのですか。またQ1:『根岸カップリング』や『鈴木カップリング』ができた事により変わったことや、実現可能になった事を教えてください。Q2:『根岸カップリング』と『ヘック反応』の違いは何ですか。Q3:教授が最も尊敬している化学者、物理学者は誰ですか、また理由を教えてください。」にも、根岸先生はわかり易く答えていただき、全体を終了しました。
 
 根岸先生との「対話の集い」を通じて、根岸先生が湘南学園の生徒の皆さんに語られたこと、その「メッセージ」から、生徒の皆さん、一人ひとりがどのように受けとめ、それを今後の自身の生き方にどのようにつなげていってくれるのか、を楽しみに待ちたいと思っています。