第299回 ある母親の懸命な生き方~「9.11」から「3.11」へ

2011年9月10日

 この9月の始めは、台風12号の日本列島通過に揺さぶられました。広い地域にわたって豪雨が何日も続き、記録的な雨量に達しました。紀伊半島の各県を中心に、おおぜいの方々が亡くなられ、行方不明となりました。
 ニュースで観る被災地の惨状にはただただ驚き、悲しむばかりです。謹んでお悔やみ申し上げます。

 「米同時多発テロ事件」から、明日でちょうど10年が経つことになります。今年起きた「東日本大震災」の日付とは奇しくもちょうど半年の差があります。
 先日あるニュース番組で、この両方の事件に関わりを持つ、ある日本の女性についての特集がありました。
 杉山晴美さんです。「9.11」のテロに襲われた巨大ビルに、銀行員の夫が働いていました。晴美さんは、当時3歳と1歳の男の子2二人を育て、第3子を妊娠中でした。夫の突然の死に直面した彼女の悲しみや苦しみは想像がつかないほどです。呆然とする間もなくわが子達を守り、半年後には新しい生命をこの世に迎えました。その後日本に帰国し、無我夢中で子育てや仕事をされてきました。
 この間、テロからの壮絶な日々を綴った手記を出版して、大きな反響を呼びました。『天に昇った命、地に舞い降りた命』(マガジンハウス社刊)という本です。

 お子さん達は元気でスクスクと育っています。長男を始めみなお母さんへの気遣いがあふれ、お手伝いもよくやるそうです。下の二人は野球チームでがんばっています。「同じおなかから生まれてきても、皆それぞれキャラクターが違って、本当に可愛いですよ」、とお母さんは笑顔です。
 学校のPTA役員も引き受け、活動的な晴美さんです。事件の後ずっと周囲の人達に支えられてきたこの10年間、いつか何か社会に「恩返し」をしたいと考えてきたそうです。
 そんな時、孤独や無力感を感じている人たちに、対話を通じて前向きに生きる力を引き出そうとする「精神対話士」という仕事があることを知ります。子育ての傍ら勉強して、この資格を取得したのです。
 そして「3.11」に直面します。被災者の力になりたいと想いながら現地行きを躊躇していたお母さんを、わが子達が後押しして、晴美さんは被災地へ向かいます。同様の深い悲しみや苦しみを経験した自分だから出来ることがある、と。
 ・・・・・・その番組(『報道ステーション』)では、新たな一歩を踏み出し、避難した住民の人たちに寄り添いお話を聴く、杉山さんの姿を追っていました。

 「9.11」という空前の事件で配偶者を失いながら、3人の男の子を育てて元気で生活し、「3.11」の被災者のもとへ行ってそのサポートを志した、ある母親のたくましい生き方です。深い感銘を覚えるばかりでした。杉山さんの前向きなバイタリティは本当にすごいと思いました。
 晴美さんは3歳の時に父親が亡くなり、母一人子一人で育ちました。真っ先にニューヨークに駆けつけてくれた実の母親を始め、周囲の多くの人達に支えられて今の自分の人生があるとの感謝の気持ちを、人一倍持っていました。
 この杉山晴美さんから学ぶことは、とても大きく強いものだと思いました。