第1437回 中村君の挑戦

2019年12月20日

この度の「サイエンスキャッスル2019シンガポール大会」に参加した中村君、そして指導に当たられた横山先生にお話を伺いました。

木下:この度は、サイエンスキャッスルへのご参加、お疲れ様でした。

中村君:ありがとうございます。

木下:まずは、サイエンスキャッスルとはどういうものなのか、初めて聞くという人にも分かるように簡単に教えていただけますか。

中村君:そうですね。理科の「学会兼大会」のようなものです。これは、集まった学生たちが、分野を問わずに会場に集まり、2つの形式の発表をするというものです。一つ目がポスター発表です。ポスターを貼ってそれについて自分が取り組んできた研究を説明するものです。二つ目が口頭発表です。ここでは、研究内容をプロジェクターで映し、説明をするというものです。

いずれもプレゼンテーションをして、それに対する意見をもらったりします。

木下:今回、中村君はどのような研究を発表したのですか。

中村君:プラナリアの研究をしました。この研究は、去年の夏休みの宿題から始まります。プラナリアという、いくら切っても死なずに再生する虫がいます。その研究をして、そのときの湘南学園の宿題に与えられるグランプリをもらいました。その年の冬に、サイエンスキャッスル関東大会に何人かで参加しました。さらに研究を進めて、そこで賞を取らせてもらいました。その後今年に入ってからも、その研究が続きました。そして、今回のシンガポール大会のサイエンスキャッスルに至ったわけです。

木下:その研究の内容概要を簡単にご説明いただけますか。

中村君:まず、プラナリアとは扁形動物で、非常に小さいナメクジのような虫です。水のきれいな川の上流部に生息しています。切ってもひたすら再生します。例えば身体を半分に切っても、下半身からまた上半身が生えてきたり、上半身から下半身が生えてきたりします。しかも記憶が転移するので、クローンのように無限に増えていくと言われている、そういう生物です。

プラナリアはグリコーゲンに嗜好性を示す、という先行研究があるのですが、実は、海苔にも嗜好性を示すという研究データもあります。ただ、海苔にはグリコーゲンが含まれていない。そうであれば、海苔に含まれているほかの成分にも、嗜好性を示したのではないか・・・、ということがきっかけで今回の研究が始まりました。今回の自分が立てた仮説は、「プラナリアは塩化ナトリウムに嗜好性を示す」、というものです。

研究の結果、塩化ナトリウムに嗜好性を示しました。わずかですが、それが該当したのです。淡水にすむプラナリアは海水の成分である塩化ナトリウムに反応を示した。しかし、ある程度近づくと拒絶反応を示しました。これが概要です。

今回の研究を通して、もし次にやるとすれば・・・、について。

例えば、プラナリアは与えた塩化ナトリウムに反応をしましたので、その濃度によってどういう変化があるかということ研究していく価値はあるかと思います。淡水の中にいるプラナリアにとって、なぜ海水の中にある塩化ナトリウムに嗜好性を示すのかな・・・、ということを追求していくこと、それが今後の研究の次のステップなのかなと思っています。

 

横山先生:話しだけを聞いていると難しいのですが、ポスターを示しながら説明をすると分野外の人に対してもわかりやすくなりますね。

木下:サイエンスキャッスルに参加した他の参加者の発表はいかがでしたか。

中村君:はい、相当にすごいですね。「世界ってこんなに広いのだ」という感じがしました。日本人だけでなくアジア人というと、どこか英語になまりがあるという感じがしますが、大会参加者の中には、本当にネイティブのように流ちょうに話せる人がいました。しかも研究内容もとても斬新で、「面白い!」と引き込まれるようなものがありました。もちろんそれぞれに欠点もあって、いいところも悪いところもありますが、それぞれが全て刺激になって、「こういう分野でこういうことをやっている人もいるんだ」ということが分かって本当に面白かったです。

木下:発表は英語だったのですよね。

中村君:そうです。英語で発表させていただきました。

木下:どうでした?

中村君:そうですね。相当難しかったです(笑)。他の学校からも日本人の参加者がいましたが、自分も含めて日本人は英語が話せないな・・・、と思いました。他国の参加者は、なまりがあったとしてもコミュニケーションが取れる人はいました。一方、日本人は英語で質問されても分からなかったり、答えられなかったり・・・。コミュニケーションツールとしての英語が日本の教育の中でどのように扱われているか、ということをしみじみと感じました。

木下:とても身の引き締まるようなお話でしたね(笑)。さて、次は、ご指導くださった横山先生より一言お話を頂ければと思います。

 

 

横山先生:では、補足する意味で少しお話をさせていただきます。サイエンスキャッスルというのは、年によって違うこともあるのですが、日本国内で数大会、関東や関西、マレーシアとシンガポールで大会が年間を通して行われています。

大会の主旨は、「高校生が情熱を持ってもっと積極的に学会発表のようなことをしよう」というものです。リバネスという組織が主催しており、「中高生のための学会」というキャッチコピーで開催されている大会です。

今回のサイエンスキャッスルシンガポール大会には、日本以外にはフィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、韓国、そしてもちろんシンガポールからも参加者が集まり、すべて英語でポスターを用いてのセッションとオーラルセッションを行いました。そういう大会で中村君は、ポスターセッションに参加したわけです。

高校生が行っている発表ですが、中には最新の科学的な新しい知見を見つけて、例えば、植物生理学会で賞を取ったグループや、日本生態学会で賞をもらったグループもそれを英語で発表していました。

それ以外の海外の国々の中で、中村君と私が感銘を受けたものがありました。

その中に、地球の持続性のために、自分たちにできることをしっかりとやっていこうという研究テーマがありました。例えば、フィリピンの高校生はフィリピンに流れ着く、あるいは人為的にもたらされる大量の廃プラスチックを、自分たちの力で自分たちの学校の設備で押し固めて、プラスチックの建材ボードを作る研究をしていました。実はこれは既に製品化されているのだけれども、「高校生が自分たちの学校の設備で取り組んで、こういうふうにできたのだ・・・」ということにとても意義があることなのだろうなと私たちは思いました。

また、特に中村君が感銘を受けたのは、タイの高校生が、バナナを輸出するときにバナナを劣化させるエチレンガスを吸収させる素材を自分たちで作って、それを箱の中に入れて出荷すれば、自分たちの国でできたバナナがおいしく新鮮に世界に届くのではないか、と考え、エチレンを吸収するボードを作る研究をしていました。実は、それも製品化されてはいるのだけれども、彼らはパイナップルの廃材を使って繊維を炭化させて、エチレンを吸収する素材を作ったりして、自分でできることで、地球の持続性をなんとかしようという取り組みをしていたわけです。

それを見て中村君は、あなたたちは「クラウドファンディングはやらないのですか。」という質問をし、これに対して発表者が、「ああ、それはまだ、考えていませんでした。」というやりとりをしたりしていました。そういったことが行われていた様子を見ていて、交流をするという意味ではどれも意義があったのではないかと思います。

一日だけ、帰国を延ばしていくつかのところを訪れました。ガーデンバイザベイという施設の中の植物のドームでは、地球の温度が1度上がるとどうなるのかというシミュレーションの映像を流してくれるというものがあって、これを見ると、とてもシンガポールの人は深刻に地球の変化を考えているということがわかりました。「これはすごい」という感想を持ったのが中村君でした。私はぜひ、中村君以外のたくさんの湘南学園生に、その映像を見てもらいたかったです。

あと、世界遺産になっているボタニックガーデンに行きました。とても広い植物園で、ものすごい数の蘭を見たりしました。その後で、ウビン島という島にフェリーで渡り、レンタサイクルで熱帯雨林の中をトレイルしました。海岸にはマングローブ林があって、熱帯雨林とマングローブ林を自転車でトレイルするという体験をして色々な野生生物が・・・、言い始めると長くなるのでこれくらいでやめますが(笑)・・・。

ガーデンバイザベイで見た映像と、ウビン島という島で見た熱帯雨林と、マングローブ林のことが、彼の頭の中できちんと結びついて、やっぱり研究というのはそういうことをちゃんと大切にしていくためのものなのだなということが、たぶん整理できたのではないかと思いました。そういった意味で私も勉強になりました。

木下:素晴らしい。中村君、参加して良かったですね。

中村君:本当にすごい経験でした。ありがとうございます。

木下:横山先生、本日はありがとうございました。

横山先生:こちらこそ、ありがとうございました。

(次回は1月10日となります。引き続きよろしくお願い致します。)