第1446回 第68回 湘南学園高等学校卒業式

2020年3月7日

本日、第68回湘南学園高等学校卒業式が行われ、197名の若者たちが巣立っていきました。

感染対策のため、卒業生と教職員のみという縮小した形式となりました。

保護者の皆さまやご関係の方々に直接お祝いを申し上げることができず、誠に申し訳なく思っております。

高校2年生の遠藤廉君の送辞は、卒業生に対する敬意と感謝、そして今後に向けての決意が感じられる力強いものでした。そして卒業生の暁山智仁君の答辞は、友だちへの思い、そしてご家族やいろいろな方々への感謝の心が込められた温かいものでした。二人とも実に素晴らしいメッセージでした。

 

式が終わり、卒業生が退場するときのことです・・・・・。

「卒業生が退場します」というアナウンスの直後・・・・・

中高の先生方が全員突然立ち上がり、アリーナの退場口に集まって卒業生の花道を作りました。ずっと生徒のことを見守ってきた先生たちの気持ちが現れた出来事でした。もちろん、事前の打ち合わせにはなかった行動でした。

「縮小した卒業式になってしまったのだから、せめて、温かく送り出したい・・・・」という思いがあったのだと思います。

私は、こういう心の温かい同僚と共に、これまで一緒に仕事させてもらってきたのだと思い、胸が熱くなりました。本校の生徒諸君も素敵ですが、先生たちも同じくらい輝いていました。彼らの同僚になることができたこと。それが私の誇りです

*************************************

校長式辞

卒業生のみなさん、本日はご卒業おめでとうございます。

まず、皆さんにとって人生でたった一度の高等学校卒業式が、このように縮小した形となり本当に申し訳なく思います。

また、本来であれば、この会場で保護者のみなさまそして関係の皆様にも直接お祝いを申し上げるべきところでありましたが、何卒お許しいただければと存じます。

さて、卒業生のみなさん、ついにその制服を着て共に歩んできた友人と過ごす最後の日を迎えることになりました。

いま、みなさんはどのような気持ちなのでしょうか。どのようにこれまで仲間と共に過ごした日々を振り返っているのでしょうか。

いずれにせよ、みなさんの胸の中には、それぞれのかけがえのない暖かな思い出の一つひとつがあるのだと思います。

***********************

私は、皆さんの授業を担当したことがなく、日常の皆さんの姿を見る機会が少ない。しかし、時々見かける皆さんの姿からあることを感じていました。

それを感じた日のことをこれからお話します。

それは高校2年生の体育祭が実施された時のことでした。

5月15日、爽やかな青空の下、中高体育祭が実施されました。

実行委員長の戸塚凜さんを始め、各係そして各色のリーダー諸君、そしてみんなが、それぞれの立場で「やるべきこと」を考え、チームで議論し、実行する。

君たちの力で創り上げる湘南学園体育祭には、君たちの文化がある。

主体は生徒。教師たちは協力者。この関係性が私個人としてはとても好きです。

・・・・戸塚さんの開会宣言、そして村田君の選手宣誓、最高に明るい雰囲気で体育祭がはじまりました。

体育祭プログラムの先頭は、各色対抗の集団演技。縦割りの5チームが、一つになってパフォーマンスを披露してくれる場であり、体育祭の重要なプログラムのひとつ。みんな真剣でしたね。

工夫が凝らされた各組の発表が次々と展開されていく中で、ハプニングが起こりました。

演技の途中で、音楽が突然止まってしまって・・・。

・・・・どうしよう・・・・みんながきっと不安になったと思います。

・・・かわいそうだよ・・・・周囲の生徒も心配していました。

君たちにしてみれば、「せっかく練習してきたのにこんなことになるなんて・・・・」という気持ちになっても仕方のない状況だった。しかし、みんなは、じっと落ち着いて待った。

誰も騒がず・・・・・。取り乱さず・・・・・。イライラせず・・・・。

・・・・再度、音が出るまでの間・・・・・じっと。本部の対応を信じて、静かにじっと待った。

君たち高2が「こういう時は、じっと待つのが正しいのだ」、と後輩たちに態度で伝えている様子がなんともかっこよかった。素敵な若者たちだなと感じていました。

そこには、君たちの信頼や絆というものがあった。

私が感じていたこととは、つまり、「友を信じる心の豊かさ」。

人として素晴らしい。

高2最後の昨年3月の文化部等の発表会の時もそうでしたね。舞台の発表はどの部活も素晴らしかったのですが、仲間のステージを見つめる君たちがつくる空気が温かいものであったことを今でも思い出します。

さて、日本は今、感染の拡大を防ごうとイベントなどを中止する判断が各方面で相次いでいます。中止検討の対象はこの卒業式も例外ではありませんでした。

しかし、本日何とか実施できて本当に良かった。

それは・・・、卒業式にはとても大切な意味があるからです。

その大切な意味とは・・・・。

これまで共に過ごしてきた大切な人に会う場なのだというものです。

こうしてこの場に集う制服姿の仲間たちの姿を見ることができるのは今日限りです。

「自分には一緒の時間を共有した大切な友人がいたのだ・・・」ということを胸に刻むことには、のちの人生において大きな意味を持つ。

だから、卒業式は大切なのだと思います。

今日は友人たちの姿をしっかりと見てほしいのです。

私たち教師にとっても卒業式はとても大切です。それまで自分が教師として何ができて何ができなかったのかを思う時間になるからです。

そして、教師は、卒業していった生徒のことを思い出しながら生きて行きます。

***********************************

みなさんにお願いがあります。

これまで自分に関わってくれた人々のことを思い出して欲しいのです。

前の席を見てください。みなさんの先生方です。先生方と過ごした日々の中にいろいろな思い出があるのではないですか。仲間との素敵な思い出と共に・・・。

先生方の声、お話、授業、感謝したいことや、時には反発したくなったときのことも含めて大切に思い出してください。

 

そして、あなたのご家族のこと。今こうしてあらためて見渡すと、みんな素敵な若者になりましたね。

でも、いいですか。一人で大きくなったのではないのだということを思ってください。

生まれてから今日まで育ててもらえたこと、いつもあなたの幸福だけを願って、ずっと寄り添ってきてくれた方に対して、心からありがとうと言うべき大切な人生の節目なのです。今日は。

**********************************

今、学年会の先生方の胸の内はきっと複雑なのだと思います。

もちろん、「卒業おめでとう。これからも元気で生きて行くんだよ!」と、エールを送る気持ちもおありでしょう。でもそれだけではないのだと思うのです。きっと。

みなさんの中には、勝負も結果もまだこれから・・・、という人もいるのでしょう。ですから、先生方は、「ああ、これで高3の担任が終わるんだ・・・」などという単純な気持ちではないはずです。

さて、来年の春に再度挑戦しようと心に誓ってこの場に臨んでいる君に覚えていて欲しいことを言います。

今日卒業してからも先生たちは引き続きずっと君のことを思っているということ。そして、これから自分が経験することがその後の人生でとても価値のあるものになり、そのすべては自身の人生を生きる力になるということ。

それを信じてほしいのです。

高3の先生方は、君たち一人ひとりの「それぞれ」を思っているはずです。

**************************************

さて、本日の夕方に開かれる予定であった「卒業を祝う会」の場で、私からみなさんにお話しするつもりでいたことを今ここでお話したいと思います。

みなさんはこの式の後は、教室に行って最後のホームルームですね。

たくさんの思い出を共有するクラスの仲間たち、そして先生と過ごす最後の時間となります。そしてそれが終わると、やがて学校を後にします。

そのあとのことなのです。

 

来週になると高3の先生方も、いつも通り出勤します。先生方には年度末の業務があるのです。

でも、ふと、仕事の手が止まる。

そして高3の教室に行く。

どうしようもない気持ちでいっぱいになることは分かっているのに、ふたたび生徒が集まることがない教室をそっと見に行ってしまうのです。

高3担当の教師にはそういう時間が訪れるのです。

**************

みなさんは、4月からひとりの大人として行動しなければなりません。ひとたび高校を卒業したら、引き続き学生であろうと社会人になろうと、大人としての責任が問われます。

楽しいこともあるのでしょうが、失敗もあるのだと思います。これまでは失敗したときには若者だからと守られてきましたが、これからは自分で責任を負うのです。

でも、過度に心配をすることはありません。責任と言っても、みなさんがすべき判断というものは実にシンプルなのです。

もし、自分が間違ったことをしてしまったと思ったら、素直な気持ちで、自分の過ちと向き合う勇気さえあればいい。

「ごめんなさい」たったその一言を言う勇気。

自分の非を潔く認め、それを改めようとする素直な心。

どのような失敗をしても、その心さえあれば、必ずやり直すことができる。人は必ず立ち直れるのです。

***********************************

みなさんは、やがて近い将来、社会の一員なるのですね。

未来のことを考えるとき、希望が膨らむこともあるのでしょうが、同時に不安もありますね。「いいことばかりじゃないかもしれない・・・」という不安。

明らかなのは、未来のことは分からない、ということです。いつか、あなたが飛び込んでいく世界のことを、今、ここで心配しても仕方がない。それは、その時になってみなければ分からない。

大切なのは、これからの自分の人生にしっかりとした意味を持たせることに目を向けることです。

目指すものがある人は強い。

夢がある人は未来を見つめます。

すると心が明るくなる。そうすれば、きっと困難も乗り越えていくことができる。私はそう信じています。

みなさんがこれから出会う未来・・・。

そこには、おそらく正解のない問いに対する答えを探し続ける辛くて苦しい、しかし、だからこそ最高に幸福な日々が待っているのだということを伝えたい。

実は・・・・、本日のこの卒業式で、みなさんが歌う「正解」が聴ける・・・と、私は密かに楽しみにしていました。卒業していく君たちに是非この歌を歌って欲しかった。それが今となってはかなわず残念です。

これからの人生という限りのある時間の中で、様々な問い対する答えを自分で探し、その答えに対する評価は自分でするものなのだ・・・。

自分の力で生きる決意を語るこの歌を歌う君たちを思い浮かべることにします。

 

巣立っていく君たちに・・・。

上手くやろうなどと考えなくていい。世間体も気にしなくていい。ただ、限りある人生のなかで、注ぐ時間が自分にとって価値のあるものになるのか、それを見つめてほしい。

そして、本当の幸福を見つけてほしい。

最後に、

今後辛いことがあったら、友だちを思い出してください。

母校を思い出してください。

友だちは人生の宝物であり、母校はずっと君の故郷だということを覚えていて欲しいのです。

君たちの未来に幸あれ。

2020年3月7日

湘南学園中学校高等学校

校 長  木 下 貴 志