第570回 『つながれない若者たち~希望ある未来へ』を観て

2012年11月22日


 先日、『首都圏スペシャル・プロジェクト2030』というNHKのシリーズから、『つながれない若者たち~希望ある未来へ』という長時間番組を観ました。若い世代の人びとが、また親や教員の世代がこれからの社会のあり方や生き方を考えたり話し合っていく上で、貴重なヒントがいろいろある番組でした。2回に分けて、その内容の要点について紹介してみたいと思います。

 「西暦2030年」は今から18年後、わが学園の在校生諸君ならば、皆が30代を迎えているという時代設定になります。その頃日本社会では、3人に1人が高齢者になり、ひとりきりで暮らす単身世帯は4割近くに達していると予想されています。若者へのアンケート調査では、この将来に不安がある~仕事や収入など~と答えた人は全体の8割以上になりました。
 街頭インタビューでも若者たちから「2030年、私たち若者が社会を支えられるか/子育てをちゃんと出来るか/高齢社会が進んで介護する人の負担が大きそうでetc./不安です」などと様々な声が寄せられていました。
 その時代に向けて、いま私たちはどのような努力を重ねていくべきなのか、希望ある未来を築いていけるのか、というのが番組の主題でした。

 始めに現代の若者をとりまく厳しい実態が、多方面から紹介されます。
 まず大都会に増加する「若者ホームレス」の実態が紹介されました。都内の路上生活者支援センターでは、来訪者の3割以上は20~30代で、ある日食べたのは「柿ピー」1袋のみ!という青年も登場します。ネットカフェなどで見えないホームレスも増えているそうです。「地方で仕事もなく親も貧しいので、上京して職を転々とし」「家族にも心配をかけられないと連絡せず、社会から孤立する」という若者の姿は典型的だそうです。

 15~24歳の世代で「非正規雇用」は、1991年には男女とも10%前後、今では女子が40%近く、男子も30%を大幅に越えています。「目的もなく何となく大学に進学し」「中退してバイト先を転々として、正規の職をなかなか得られない」若者達の姿も紹介されます。現在の自分を知られたくないと、友人や知人のメルアド全てを除去したという痛々しい例もありました。大学中退者の約半数がその後非正規で転職を繰り返していることが示され、欠席の多い大学生にはメール連絡で出席を促し、キャンパスで先輩のアシスタントが後輩との会話を組織的に進める大学すら出てきている例が紹介されました。

 あるNPOの方々が、都内の繁華街でさまよう女の子に次々と声をかけると家出した子も少なくありませんでした。月に5千件もの「孤独相談」を受けている団体です。またわが家にいても居場所がなく、家族との会話が切れている子ども・若者が激増していると痛感するそうです。親の「お人形」のように育てられ、着る物も外出も進路も親に決められ規制され、淋しくて出会い系から見知らぬ男性を渡り歩く女の子の例も出ていました。ひきこもりや自殺未遂の子どもを持つ母親が、後悔や反省を胸にとことん語り合うサークルの取り組みの例も出ていました。

 そこでのキーワードは「過干渉」でした。社会の現在が、未来が不安だからと、うちの子だけはと「予防し」「先取りし」、その先回りする親のもとで子どもは様々な失敗や経験を通じて成長する道が狭くなり、限られた生活範囲と経験の中から外に出ていけなくなると指摘されます。
 世の中にはもっと多様な世界や魅力があることをつかめないまま、社会に出て行く不安や恐ればかりが大きくなり、その結果社会の現実に直面するとすぐに挫折し孤立しやすくなるという指摘が、番組の基調のひとつとなっていました。(次回へ続く)