オーストラリアセミナー 14日目

2014年8月26日

 ついに、2週間のノックス校での研修を終え、メルボルンを離れ、日本へ帰らなければならない日がやって来てしまいました。午前中、生徒達は、それぞれのホームステイ先でのんびりと過ごしたり、あるいは、一緒にメルボルンでの最後のショッピングに出かけたりして、出発前のひと時をホストファミリーと一緒に過ごしました。

 午後1時。ホストファミリーの自家用車に乗って、生徒達はノックス校の駐車場に続々と姿を現しました。車から降りるなり、早くも大泣きしている生徒もいて、駐車場の雰囲気は、お別れムードに包まれていました。全員が集まったところで、みんなでグループフォトを撮って、家族毎の最後の写真も撮り終えたところで、いよいよバスに乗り込む時間となりました。が、これがなかなか難しく、僕が、Get on the bus, please. といくら言っても、学園生達はいっこうに僕の指示を聞いてくれません。まあ、無理もありませんよね。この2週間、こんなに親切に僕達のお世話をしてくれたホストファミリーやノックス校の先生方、そして、ノックス校の生徒達と「それじゃ、またね。バイバイ!」とあっさりと別れられるはずがありません。まだまだ名残惜しく、これが最後と思ってハグすると、益々涙が滝のように目から落ちて来てしまい、彼らと別れるのがなおさらつらくなってしまったようです。

 しかしながら、ホイストファミリー達に背中を押してもらいながら、やっとのことで、バスの乗車口の前まで来ることが出来、そこで、お世話になったピーター先生・ケリー先生・ティナ先生らとこれが最後のハグを してもらって、「7週間後には日本で会えるから!」と励まされながら、全員がバスに乗り込むことが出来ました。見送りに来てくれた皆さんにバスの中から手を振って、バスが動き出すと、学園生達の顔はみなくしゃくしゃになって、バス内は号泣の嵐が吹きまくりました。「オーストラリアセミナーはまだ半分が終わったところで、9月にはその後半のノックスジャパンツアーがあるから、まだまだこれで終わりではないですよ!」と僕がいくら言っても、「ノックスじゃないとダメなのぉ~! ノックスにずっとずっといたいのぉ~!」とそん鳴き声は、バスの中で40分以上も止むことがありませんでした。

 バスは、いよいよシドニー行きの国内線の飛行機に乗るメルボルン空港に到着しました。出発カウンターで手続きをしているところに、なんとなんとピーター先生がお見送りに来てくれたのでした。これには、学園生達もまたまた感激! 彼の落ち着いたふところ深い人間性に触れるだけで、幸せになってしまうような、そんな素敵な副学園長先生が、笑顔いっぱいで空港で迎えてくれたのですから。

 ピーター先生は、僕達の飛行機の搭乗口まで来てくれて、本当に最後の最後、飛行機に乗り込む瞬間まで僕達を見守ってくれました。ピーター先生から、メルボルン空港で最後に聞いた興味深い話を紹介させて戴きます。ピーター先生の妹さんの息子さんは、高校を卒業するまで、大学で何を学ぶのか、将来どう生きていくのかなどについて、ほとんど考えを持たずに過ごして来てしまったそうです。高校は卒業したものの、進学先も決まっておらず、いったいこれから何をしていいか分からない状況にあった息子さんに対して、その母親であるピーター先生の妹さんは、息子さんに言いました。「ここに香港行きの片道切符があります。これをあなたにあげますから、1年かけて自分の生き方を探して来なさい」と。息子さんは、少しのお金とその片道切符を持って、しぶしぶ香港へ旅立って行きました。香港でアルバイトをした後、カンボジアやベトナムやインドなどのアジアの国々を転々とし、ボスニアやトルコをまわり、ヨーロッパの国々を巡った後、イギリスにたどり着き、そこでも安い給料で貧しい暮らしをしているうちに、自分自身がこれからどうしたいのかを見つけることが出来たそうです。オーストラリアを出る時、母親は「1年で見つけて来なさい」と言ったのですが、1年半かかったそうです。そして、今では、3人の子どもを持つ40歳の自分で起こしたファイナンス会社の社長さんだそうです。

 オーストラリアでは、高校を卒業して、大学に入学するまでの間、半年や1年の「ギャップイヤー」と呼ばれる入学猶予期間が保証されています。学生達は、この猶予期間中に、アルバイトをして自分の学費を稼いだり、旅行などをして見聞を広めたりした後に、大学に入学する人々が少なくありません。日本でずっと暮らしていると、なんだか毎日毎日時間に追われていて、自分の将来や人生についてじっくりと考えたり、社会と触れ合いながら、自分の立ち位置を 確認したりする時間があまりなく、オーストラリア人から見ると、日本の若者達は、「長い人生そんなに急いでどこへ行くの?」と質問したくなるのではないかと思ってしまいます。

 グローバル人材育成の重要性が、今、日本の財界や教育界、至る所で声高らかに叫ばれています。確かに、そのために、文部科学省も若者達の海外留学を積極的に押し進めるために、様々な工夫を始めています。ただ、海外に出かけて行くことは、何もグローバル人材として自分を育成しようという、その目的に高いハードルを設けなくても、「自分がこれまで知らなかった人々の生活や価値観に触れてみる」だけでも、十分に価値あることだと考えます。湘南学園の子ども達にも、様々な海外セミナーや出来るだけ多く学園での外国人と触れ合う機会を作ってあげたいと思っています。そして、そうした活動の中で、子ども達が、「新発見」をたくさんたくさんしてもらえればと願っております。