第826回 イラン生まれの女性タレント

2014年1月27日

とても気になる、女性の外国人タレントがいます。
流暢な日本語、さわやかで機知に富んだトーク。民放番組のリポーターやキャスターでレギュラーの機会が多くなり、ゲスト出演ではNHKの英会話番組にも登場している方です。
その名はサヘル・ローズさん。中高生や小学生にも注目してほしい女性です。

 

彼女の生い立ちは、想像を絶するほど過酷です。国境に近いイランの西部に生まれた彼女は、すぐ隣のイラクとのあの戦争で、生家が空爆を受けて、両親も兄姉も全員亡くしてしまいました。倒壊した家の瓦礫の中から、奇跡的に救出された戦争孤児のひとりです。

その後孤児院で暮らしますが、彼女を発見した女性のフローラ・ジャスミンさんが、彼女を引き取ることを決意します。フローラさんは当時大学生でボランティアの救助活動をしていました。発見した幼い女の子に「お母さん」と呼ばれて運命を感じたそうです。「家柄に傷がつく」として実家に養育を反対されながら、この子と共に暮らそうと決心して、当時婚約していたイラン人男性を頼りに日本に移住しました。
しかしその男性と別れて一時は極貧生活にあえぎ、フローラさんはペルシア絨毯の織り子などで生計を立て、サヘルさんは日本の学校でいじめも乗り越えて育ち、大学まで卒業しました。この生い立ちからわかるように、本当の出生名などは不明で、現在の本名は後からつけられました。誕生年月日も生家の所在地もいまだに確定できていないのです。

 

サヘルさんは、この間声優コースの専門学校へも通い、ラジオのオーディション合格後は、モデルやラジオ出演などで人気を集め、テレビ出演で一気にブレイクしました。お茶目でバラエティ番組でも重宝されるほどです。幼い頃からお芝居やドラマが好きで、現在は演劇にも挑戦して舞台に出ています。日本はもちろん、故国の人びとにも認めてもらう女優を目指しています。
サヘルさんが、失われた故郷の記憶を求めて旅する特集が、以前NHK-BSで組まれましたが、先日も再び、故郷と推定される町を訪れる特集がテレビ東京で放映されました。しかし自分のルーツをアイデンティティをどれだけ探っても未だにつかめない苦しみがサヘルさんを包み続けています。

 

でも「育ててくれた養母に恩返ししたい、そのために日本そしてイランを代表するような女優になりたい」という決意や使命感を持って、頑張り続けているのです。凄まじい苦難を経ながら、なぜあれほど元気で笑顔いっぱい、前向きに頑張れるのか信じられないほどです。

聡明で魅力的なサヘル・ローズさんの今後の活躍を楽しみにしています。逆境をくぐった彼女の強さに少しでも学べたらと、若い世代にもぜひ注目してほしいと思います。