第52回 サッカーW杯開幕!:「南アフリカ共和国」について

2010年6月12日

サッカーの世界選手権大会=「FIFAワールドカップ」が、昨日開幕しました。テレビ視聴者数ではオリンピックを上回るという、世界最大のスポーツイベントが、これから1か月にわたって展開されます。
今回の開催国は、「南アフリカ共和国」です。2002年の「日本&韓国」、2006年の「ドイツ」に続いて、初めてのアフリカ大陸での開催となります。 日本チームは苦戦した練習試合が多かったので、予選リーグの通過は厳しいという見方もありますが、この間の経験を生かして奮闘し、突破して欲しいもので す。

さて「南アフリカ共和国」といえば、在校生の皆さんは何を連想するでしょう。中1の地理学習では、「金やダイヤモンドなど地下資源に恵まれた大陸第一の 経済大国」で「アパルトヘイト=人種隔離政策を克服し、黒人が主人公になった国」であることを知ります。さらに高校の世界史学習では、「17世紀にオラン ダ人が入植して、19世紀初頭から英国がそのケープ植民地を奪い、20世紀初頭にボーア戦争で領土を拡大し、第二次世界大戦後にイギリス連邦から独立して いまの共和国になった」という流れを知ります。本日はこの国がいま抱えている課題についてふれてみたいと思います。

この国は、国民の大多数をしめる黒人など「非白人」が、少数の白人に支配され、あらゆる人種差別が法律で公然と認められていた国でした。1994年に解 放運動の指導者マンデラ氏が大統領に就くまでに、多数の犠牲者を出しているのです。私が1980年代に衝撃を受けたドキュメンタリー番組がありました。 「まずスポーツから黒人と白人が壁をこえて交流しよう」と、この国でさかんなラグビーやサッカーで「白人と黒人の混成チーム」を作る動きが、差別を批判す る白人達から生まれました。しかしこれを嫌う別の白人達が、脅迫電話や放火までして妨害を重ねます。正義を貫くのに生命をかけねばならない時代でした。
国際的な経済規制を受けて同国が追いつめられると、白人の権力者の中からも人種差別の撤廃と全国民による総選挙を認める、勇気の動きがおきました。
そして黒人政権のマンデラ大統領は、過酷な弾圧を受けた自分の体験を超えて、全国民に「和解」を、黒人には「復讐の断念」を呼びかけました。同じ南アフリカの国民として、新しい国づくりで協力していこうと呼びかけたのです。

実際、その後の同国は、新たな試練の連続です。非白人の失業は改善されず、治安が悪化し、エイズの蔓延も深刻です。「こんな犯罪の多い国でW杯大会をひ らくのは無理だ」との意見も広がり、停電や交通マヒなど運営を危ぶむ声はいまでも強いのです。また隣国のジンバブエが独裁政権のもとで超インフレと破滅的 な失業率が続き、おおぜいの人びとが仕事を求めて南アフリカ共和国に連日流入しています。安い労働者を使って生産と輸出が伸びる一方で、さらに仕事を失う と怒る南アの黒人達の不満は暴動にもつながっています。

そんな国で、サッカーワールドカップはついに開幕しました。日本から遠い国で、直接応援に行く人たちも今回は少ないことでしょう。  テレビで観戦を楽しみにする在校生の皆さんや小学生の皆さんには、そんなこの国のあゆみや現在の努力にも、目を向けてくれたらいいなと思います。