第1099回 アジア諸国の国民性~多彩な暮らしぶりを知る ②

2015年5月16日

昨日からのつづきです。『日本人が意外と知らないアジア45カ国の国民性』の本から、最初に登場するインドの記述を例として紹介します。

 

インドの人口は12億人以上、多数の民族や宗教が入り交じり、お札には17種類の言語が記されています。富裕層は欧米型の生活を送り、世界で活躍するIT技術者やビジネスマンを輩出する一方、観光地では大勢の物乞いがひしめき、道端で人が行き倒れる姿もあります。民族や階層が違えば意見がぶつかるのは当然で、損得勘定にもうるさく徹底的に議論することもあり、“国際会議で一番発言するのはインド人で、しないのは日本人だ”との指摘まであるそうです。小学校からディベート教育が行われ、交渉力が鍛えられるようです。

中学の地理や歴史で習う「カースト」や「ジャーティー」の階層意識がいまでも残存し、分業の徹底と仕事の上下・貴賤意識が根強いようです。ネットのSNSでジャーティー毎のコミュニティーを作る人も増えているそうです。結婚にも影響は濃く、婚活サイトの自己紹介では学歴・収入・所属階層等もあげるそうです。既婚女性の目印とか、地方での持参金絡みの女性差別のことも紹介されます。地域・気候や宗教によって食文化も多様ですが、菜食主義者が約2億人もいることには驚かされます。映画大国、「ヒングリッシュ」、「印僑」の活躍、不可触民の改宗などにも触れられていました。

ベトナムを例示します。「几帳面で愛国心が強い若者国家」と紹介されます。ベトナム戦争を知らない若い世代は、かつて敵国のアメリカにわだかまりなく英語を学び、iPhoneやiPadを使いこなします。でも祖国が危機になったら自分も戦うと答える若者の率は断然高いそうです。貧しい農村部から国内外の上流家庭に出稼ぎする家事手伝いやメイドは「おしん」と呼ばれます。ベトナムは漢字文化圏で大乗仏教が主流であり、料理も衣装も中国文化の影響が濃いのですが、侵攻や朝貢の歴史も長いために、ベトナム人は中国への複雑な感情を持っています。

イランを例示します。トルコとは対照的に数少ない「政教一致」の国です。イスラム教の最高指導者が大統領より偉く、生活ルールはイスラム教の戒律に従います。暑い中でも女性は頭からチャドルを身につけて人前に肌を出さず、女子サッカー選手は長袖長ズボンで頭にフードをかぶって試合をします。海水浴場のビーチは男女別々です。一方「何事も神様アラーのおぼし召し」と考えるイラン人は、感情的になっても翌日には切り替えるサバサバした性格が印象的だそうです。「偉大なペルシア帝国の末裔」としての誇りを持ち、シーア派が主流で周辺のアラブ諸国と対峙し、3種類の暦を使います。断食期間の徹底ぶり、靴を脱いでの絨毯の愛用、女性の晩婚化の背景など興味深く読みました。

 

この本には、ブータンやラオスなど小さめの国々もくまなく登場し、それぞれの個性が紹介されます。パレスチナ自治区、クルディスタン、ロシア極東・シベリア、チベット、ウイグルなど注目すべき地域もその要点が説明されます。それぞれ印象的で的確なコメントがあり、広大なアジアの奥行きの深さ、個性的な文化の広がりに惹かれることでしょう。巻末には膨大な「主要参考文献」も挙げられています。

この本の執筆集団は、造事務所と記されています。近年の精力的な出版事業が注目されます。類書には『日本人が知らないヨーロッパ46カ国の国民性』『日本人が驚く中南米33カ国のお国柄』が同文庫から刊行されています。偏見や先入観には気をつけながら、グローバル社会への興味と理解を広げる上で役に立ててもらえたらと思われました。