第1293回 高3総合学習発表会

2016年6月3日

“Respect for one another’s challenge”
 
 湘南海岸の貝殻を意匠としたといえる本校の中高ホール。総合学習発表会が行われたこの日は、高校3年生で埋め尽くされ、熱気で息苦しい位でした。先日、高校3年生5クラスの総合学習プレゼンテーション大会最後の決勝戦が行われました。川井陽一学園長と共に講評を担当する役割を担って、2・3時限にわたるプレゼンテーションを見学させていただきました。
 
 この企画の意図を次のとおりです。

「デジタル化とグローバル化が急速に進む中で、10年後には今ある職業の約半分がロボットや人工知能で代替できるようになると言われています。そんな『どうなっていくのかわからない世界』を生きていくためにも、『自ら課題を発見し解決する力』『コミュニケーション能力』『物事を多様な観点から考察する力』『様々な情報を取捨選択できる力』がこれからの社会では求められます。
 また、生徒達が”自分の悩みや望み”と向き合う機会を持つことは、”自分自身の可能性”を再発見する場面としても有効であり、これまでの5年間共に学んできた仲間が”どのような願いと出会ったのか”を知り、語り合う機会は『大人から教えられること』以上の”学び”を生徒たちにもたらしてくれるでしょう。」

 果たしてこの企画は成功したのでしょうか。

 結論から言えば、プレゼンター1人持ち時間5分間×12本の構成は、どれも甲乙つけがたく質の高いプレゼンテーションであったというのが率直な感想であり驚きでもありました。つまり大成功であったといえましょう。
 
 その1つをご紹介します。ある数学好きのKさんのプレゼンテーションです。
 Kさんは小学校1年生のころから算数が大好きで、中学生になり、「テスト勉強は嫌いだけれど数学は好きダヨ」に。そして高校1年の時、湘南学園が推進しているESDに関わり、「持続可能な社会と数学教育」について一文を作成しました。なぜこれほどまでにKさんは数学がすきなのか。その理由は算数は「わかった感覚がどの教科よりも実感しやすい」というものでした。なかでもKさんが好きな数学は「フェルマーの最終定理」というものです。数学って「いろいろな見方を養えるし、社会に必要不可欠!」とさらに考えを深めてきました。当然、「高校2年は理系!数学ばっかりで楽しいだろうな」と夢を膨らませていました。自身の進路についても、“数学を究めたい”という自身の希望が叶う大学を調べ、目標とする大学を決め、いざその大学合格にむけて力を注ぎ始めました。

 ところが高校2年になると、今まで味わったことのない感覚、つまりそれまで大好きだった数学が面白くなくなってきている自分に気がついたのです。「なぜなんだろう?」Kさんは考えました。数学に興味関心が膨らみ、楽しくて仕方のない頃は、「フェルマーの最終定理」に代表される数学の本質に関わる学びは、つねに衝撃的なものであり快感を与えてくれました。しかし数学が面白くなくなってきた今の学びは、目標とする大学合格を勝ち取るための問題集をやりまくる「受験数学」であり、どうもそれに拘泥しすぎたことに原因があるように思えてきたのです。そこには他者と競い合うプレッシャーも加わっていました。
 
 Kさんはこうしてスランプに陥ったことをきっかけに、改めて数学を深く学んでその本質を理解する取り組みの意味を考えたのです。そこで改めて将来展望として「教員になってもっと楽しい数学の授業を作る!」「文科省で大学入試改革に関わる」という目標を描いたのです。
 
 こうした振り返りが、改めて人に夢と希望を持たせることができるのだ、Kさんのプレゼンテーションはその可能性を垣間見させてくれました。この地点に立ったKさんは、これからどのように飛躍をしていくのでしょうか。「大人になっても数学という学問に関わっていたい!」という主張をオーディエンスである私たちは気持ちよく受け止めることができました。Kさんをはじめ夢と希望を描いてくれたすべてのプレゼンターに心から拍手を送ります。