第1372回 「湘南の知性輝く気品高い学園生を目指して」

2018年3月30日

~「志」に立ち返り、求めるべき「歴史社会」を想像し創造する~

 2016年4月、学園小学校校長から異動して、同一法人の学園中学校高等学校の校長に着任以来、ほぼ2年が経過しようとしています。そこでの抱負を「湘南の知性輝く気品高い学園生を目指して」としました。また新入生をはじめ、全在校生に宛てた「志」を次のように記したことを昨日のように記憶しています。
 少し長くなりますが掲げ、今後の新たな前進の糧の1つにしていただきたいと願うものです。

湘南の知性輝く気品高い湘南学園生を目指して

湘南学園中学校高等学校
校長 榎本 勝己

1.湘南学園を知り、その歴史と「建学の精神」に学ぼう
 初めに湘南学園とその歴史について少しふれておきましょう。学校法人湘南学園は、幼稚園、小学校、中学校・高等学校を併せ持つ総合学園として存在します。その歴史は1933(昭和8)年の幼稚園、小学校開設まで遡ります。その開設に関わったのが、ここ鵠沼をはじめ湘南地域に在住されていた有識者の皆様でした。初代学園長に小原国芳氏を招き、理想とする「全人教育」を実践する教育機関としてこの湘南学園が創立されたわけです。

 時代は戦時中という私学教育も国家から大きな制約をうける歴史環境にあって、草創期の湘南学園関係者は理想とする「全人教育」の実現に向かい懸命な努力を重ね、その結果、理想教育を追い求めてきた湘南学園の灯火が守られたのです。終戦、そして戦後の民主化と教育改革を通じて、湘南学園は新制中学校と高等学校を併設し、今日の総合学園の陣容が整えられました。新入生の皆さんには、この湘南学園の歴史に学ぶこと、そしてその現代的意味を考えていただきたいのです。
 そこで開学草創期から私たちが大事にしている「建学の精神」を紹介しましょう。

  個性豊かにして身体健全 
  気品高く 
  社会の進歩に貢献できる 
  明朗有為な実力のある人間の育成

 私立学校はこの「建学の精神」の実現をめざして、特徴ある教育活動を進めています。この「建学の精神」には、創立に関わった人々はもとより、園児・児童・生徒や保護者の皆様の願いが託されているといって良いでしょう。その時々の日本と世界の変化変容を受けて湘南学園も様々な教学改革を施してきましたが、そうした時には必ずこの「建学の精神」に立ち戻って、新たな教育活動を進めてきたのです。皆さんには、じっくりその意味を考え汲み取り、これからの学園生活に活かしていただくことを望みます。
 
2.人類の最大の文化遺産である学問を学び使いこなせる自分に
 皆さんを待ち受けているのは、自然科学、社会科学、人文科学といった学問体系のそれぞれを教科として落とし込んだ「中等教育」(前期は中学校・後期は高等学校)と呼ばれるものです。教科制に基づく授業や実験・実習が幅広く展開されます。

 翻って皆さんがこれから学ぶ「学問」は、人類が長い歴史のなか多くの情熱を傾けて築き上げてきた最大の文化遺産であり、後世への「メッセージ」であるといえます。とりわけルネサンス後、近代科学の発展のなかで学問体系は形づくられてきたといえますが、ガリレオ裁判を例にとるまでもなく、それは時代との格闘のなかで生み出されてきたといってもよいでしょう。まさしくそこには人類の真理探究と豊かな人間社会を目指した心血が注がれてきたといっても過言ではありません。

 こうした学問体系は、各教育課程に落とし込まれ、それぞれの教科目となり教育目的・教科目的をふまえて編成されています、それが「カリキュラム」というものです。このカリキュラムは学問の進展によりこれまでも、これからも豊かになっていくものといえます。
この学問を皆さんが学びとることは、学問を自分の「味方」にするということを意味します。「味方」にした学問を自由闊達に使いこなす時期は、大学、大学院という少し先のステージでのこととなりますが、それへの準備として皆さんには日常生活の視点から、プレ大学生、プレ高校生として、広く世界に眼をむけて、絶えず疑問をもち、各学問体系の狭間を旺盛にかつ粘り強く行き来する姿勢をつくって欲しいのです。

 また座学(机上の学習)のみに甘んぜず、若い行動力を発揮してできうる限り自らの五感をつかって「現場」に出向き見聞し学び考えることと、座学で学んだことを摺り合わせてみることをお勧めします。そこには小さくも大きな意味をもつ「大発見」があることでしょう。
 
3.「異質な他者」との豊かな対話を通して自己をみつけ関係性を築こう
 湘南学園中学校高等学校の6年間は、「自分崩し、自分つくり」と表現されるように、思春期の最も多感で心身ともに共に大きく成長する時期にあたります。一人ひとり多様な個性をもった生徒の皆さんが、クラスやクラブなどで仲間や私たち教職員と共に学び、考え悩み、汗を流し、共感し高め合うことになります。このステージこそ湘南学園中学校高等学校です。

 「自分らしい個性を磨きたい」と考える場合、必要になることは、生徒会、クラス、部活といった「社会集団」と自己との係りにあるといえます。その中に身をおいて異質な他者とコミュニケーションをとり、議論し、意見や主張の差異を認め、また差異が生ずる背景にも思いをいたし、新たな意見や主張の最構築を図るなど、協力・協同をキーワードとしてこそ自分という存在が見えてくるのではないでしょうか。つまり他者や集団との関係性を築くことの重要性です。

 いまグローバル社会が大きく進み、AI(人工知能)の進化によって人々の働き方が劇的に変容するであろうことが指摘されれています。湘南学園中学校高等学校では、「ユネスコスクール」の指定を獲得し、「湘南学園ESD」教育の推進を通じて、地球規模の課題認識とその解決にむけた足元からの取り組みを一つひとつ進めています。

 そうした時代の転換点ともいえるなかにあって、皆さんに求められるチカラとはどのようなものでしょうか。1つは自らの進路や「その先の自分」を想像し、日本や世界への貢献の在り方考えるステージである湘南学園中学校高等学校の生活を、1日1日大事に生きていくチカラです。2つには自分を見遣るもう一人の自分をつくり、困難であるもやりがいのある新たな課題を見つけて、その課題解決に立ち向かう自分を励ますもう一人の自分を創造することです。五感を活かした「人としての総合力」を駆使し、私たちが望む「歴史社会」を想像し、創造して行きましょう。
 
4.湘南学園を誇りに思っていただくために
 湘南学園には、教職員のみならず、「PTA」をはじめ「同窓会」、「後援会」、「地域の皆様」など湘南学園教育の良き理解者、支援者がおいでです。皆さんの先輩であるOB・OGが組織する同窓会は、日本と世界の各分野で活躍される有為な人材を数多く輩出してきています。創立80周年記念音楽祭で協力し活躍いただい歌手で作曲家の平尾昌晃さん、作曲家の尾高惇忠さんをはじめ、元森ビル(株)取締役社長の森稔さん、元EU大使の朝海和夫さん、桜美林大学副学長の諸星裕さん、元経済学者の青木昌彦さん、指揮者の広上淳一さん、NHK会友の鈴木健次さん、元伊勢丹社長の筧元則さん、タレントの設楽りさ子さん、女優の鶴田真由さんなどをご紹介すればその幅の広さはお分かりでしょう。

 創立84年を迎える歴史と伝統ある私学の強みの1つは、そうした後援団体が有形無形に学校と皆さんをいつも見守り後援していただいていることです。皆さんは湘南学園中学校高等学校を卒業される6年後には、この湘南学園を巣立ち、同窓会の一員となります。これから皆さんが自らの進路の岐路に立たされる場面がきっとくることでしょう。その際に大きな力になっていただけるのが同窓会の先輩達なのです。

 湘南学園は他の私立学校と比しても地域性を強く反映した学校であるといえます。地域の皆様は、鵠沼海岸駅や鵠沼駅など各通学ルートから登下校する皆さんの言動が社会的マナーに適っているのか、注視もされています。湘南学園は地域の防災避難場所の1つとして指定され、地域貢献・社会貢献の1つの役割を担っています。地域の一員として湘南学園は存立しますが、そのためには皆さんが湘南学園を誇りに思っていただくと共に、地域の皆様からも湘南学園を、そして学園生を誇りに思っていただくことが不可欠です。社会的マナーと思いやり溢れる機転を効かしたその時々の対応を心がけましょう。
 
5.湘南の知性輝く気品高い学園生を目指して
 湘南学園の校章は、「気品とたくましい生命を秘める松。わが校の校章は金色の松葉を二組、上下から組み合わせたものです。金色は光輝、希望をあらわし、松はみずみずしい気品と長い風雪に耐えて成長していく、たくましい生命力をあらわしているのです。」そして「紺地」は、鵠沼海岸に広がる相模湾、太平洋の海の青、そしてどこまでも広がる湘南の空の青さであり、それは冷静沈着、知性をあらわすといわれています。

 ここ鵠沼松が岡は、明治以降、とりわけ文化芸術を中心とする特色ある「歴史文化」を築いてきている地です。地域の歴史にも深い関心をもち、時にたおやかに吹く湘南の風、突き抜けるような青い空、降りそそぐ強い陽光をうけ、育んできた「建学の精神」でも謳われているように、「湘南の知性輝く気品高い学園生」を目指して、共に湘南学園の新しい歴史をつくっていきましょう!


 歴史の歩みは時に激しくある時は緩やかに流れるといいます。私たちが共に生き、生かされる地球は、人類の誕生を経て、人を構成員とする「社会集団」がその集団間の調整(政治)を図りつつ、あるべき歴史社会を人々が求める方向で創りあげてきました。いま私自身がこの「志」に立ち返り、求めるべき「歴史社会」を想像し創造する営みに参画する構えが求められているのだと思えてならないのです。今を生きる皆さん一人ひとりが、求めるべき「歴史社会」を想像し創造する権利を有する歴史の主体者であるのですから。

 *次回「校長通信」の更新は、新学期4月に入ってからとなります。この2年間「校長通信」をお目通しいただき、また励ましをいただきましたことに感謝いたします。