第1386回 「自分で決める」

2018年9月7日

9月1日、夏休みが明け、再び学校生活が始まりました。まずは、生徒諸君が学校に集まって元気な姿を見せてくれたことが何よりでした。
久しぶりの朝礼の場で、中高の生徒諸君の前でお話をしながら感じていたことがあります。それは、「湘南学園の生徒は品がある。」ということでした。彼らの「話を聞く姿」に心を打たれたのです。話し手に寄り添い、暖かな表情をしてくれる若者たちの姿を見て、心から感動していたのです。彼らの姿には美がありました。
そして湘南学園の先生たちです。アリーナの後方で生徒を見守る先生方から温かい空気が流れている感じがしました。
「湘南学園って何だかいい学校だな」と思いながら、皆さんの前でお話をしていたのです。

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皆さん、おはようございます。
今日は元気に登校できましたか?

さて、学生時代の私といえば、始業式の前夜はいつも憂鬱でした。
8月31日になると、・・・・

「ああ、夏休みが終わってしまうのだな・・・明日から学校なんて嫌だな・・・」と、ため息をつくような生徒でした。どちらかといえば暗い気持ちになってしまうタイプだったのです。
常にそのようだったわけではないのですが、私はそういうタイプでした。みなさんはどうですか。明るい気持ちで毎日元気に過ごしていけたらと思いませんか。

さて、今日はみなさんに一つ、ご報告があります。
このお話は、皆さんの中でも覚えている人がいるのではないかと思います。

これは今から約3か月前の5月31日の登校時の出来事です。

その日、鵠沼海岸駅を出て学校に向かう途中の呉クリニックさんの前の路上で、この出来事が起こりました。
あるお母さんが、生後2か月くらいの赤ちゃんを抱いて歩いていました。そばには、その赤ちゃんのお姉ちゃんである4歳の女の子がいました。その日は雨が降りそうでした。でもまだ降っていませんでした。雨に備えて、その4歳の女の子は傘を持って歩いていました。
そのときです。お母さんは、その女の子が持つ傘に躓いて転倒してしまったのです。赤ちゃんと共に・・・。赤ちゃんは、道路に頭を打ってしまいました。明らかに大変なことになってしまったということが分かる程だったのです。お母さんも転倒してしまったのですから、腕などに怪我を負っていました。しかし、赤ちゃんがたいへんな怪我をしたということで、気持ちが動転していたのだと思います。そのお母さんは、自分の怪我にまったく気付いていない様子でした。

その現場を本校の生徒の一人が目撃しました。お母さんとその赤ちゃんを見た瞬間に、大変なことが起こったのだとわかりました。その生徒は・・・・・即座に対応しました。すぐさま救急車を呼ぶという判断をしたのです。「どうしようか・・・・」と迷うことなく、直ちに119番通報したわけです。
救急車が到着するまでの間、その生徒は怪我をしたその親子に付き添いました。救急隊員の方が到着するまでずっと寄り添い、見守ったのです。やがて救急隊員の方が到着して搬送されました。救急車を見送り、その生徒は学校へと向かいました。

その日の夕方・・・

一日の学校生活を終え、その生徒は鵠沼海岸駅に向かいました。すると駅の近くで、そのお母さんにばったり会ったのです。本当に偶然でした。
「あっ、あのときのお母さん・・・」
「あっ、あのとき救急車を呼んでくれた生徒さん・・・」

その生徒は、そのお母さんに赤ちゃんの怪我の様子を尋ねました。すると、頭がい骨骨折の大怪我だったということがわかりました。ただ、即座に救急搬送ができたことで、大事には至らなかったそうです。ですから、その日の朝、その生徒がとっさに判断したことによって深刻な事態を避けられたのだということです。その赤ちゃんのお母さんはとても感謝していました。お母さんは、その生徒に名前だけ尋ねました。

その後、しばらく時が経過したときのことです。怪我をした赤ちゃんのお母さんから生活指導の原先生に手紙が届きました。普段から登校指導や下校指導をされている原先生が湘南学園の生活指導の先生だとご存じだったのでしょう。お母さんは、原先生に手紙を託されたのです。

その手紙を差し支えない範囲で読みたいと思います。

(手紙の一部を読みました)

さてその生徒ですが、その人は現在湘南学園に在籍している人です。名前は赤津麗沙さんです。事務所脇や正門わきのフェンスに「関東大会出場 赤津麗沙」「インターハイ出場 赤津麗沙」と横断幕が据え付けられているので、その名前を多くの生徒諸君が知っていると思います。その赤津さんです。

先日、赤津さんにこの話を聞きました。赤津さんは、「当然のことをしただけです。」と答えていました。
赤津さんに、「救急車を呼ぶという判断を即座にすることができたのは当然のことだった」というのは、どのようなことなのかについて尋ねると、赤津さんはこのように語ってくれました。
「以前、私の具合が悪くなった時に、周囲にいた人たちが救急車を呼んで助けてくれたことがありました。5月31日の、あのときの判断は、自分自身が助けられた時のことがよみがえってのことでした。ですから、私としては自然なことだったのです。」

誰かに良くしてもらったので、その相手にお礼を言うとか、お返しをするということは日常的に行われていることだと思います。それはそれでよいことですね。
この日の出来事で特徴的なのは、「誰かにしてもらった嬉しかったことを、別の人にしてあげる」という善意の連鎖だったということです。これもまた実に素敵なお話ですね。こうした行動をする人が世の中を幸福にしてくれるのでしょうね。

私は、このようにして善意の連鎖が広がっていくと、きっと世界が良くなっていくと思うのです。
その第一歩をあなた方が踏み出してくれたらと思います。

「明るい気持ちを持つことができる人・・・」

それは、「自分の意志で自分の行動を決定することができる人」です。

たった一度の人生ですから、「納得のいく人生を送るために自分は何をするのがいいのだろうか?」と考えて、自分のやるべきことを自分で決めてみてください。

自分で決める。
自分の力で動き出す。

きっと明るい気持ちになれると思うのです。